企業の社員研修が「無形投資」と言える理由

研修の成果は企業にとっての「資産」となる

研修の成果は企業の資産として見ることができます(写真:Chatchai Limjareon/iStock)
GAFAの台頭に代表されるように、工場や店舗といった「有形資産」ではなく、データやアルゴリズム、ブランド、研究開発といった、見えないのに価値を生む「無形資産」の割合が増加している。しかし、無形資産は計測が難しいこともあり、その特徴や経済規模などを十分に把握できていなかった。
ジョナサン・ハスケルとスティアン・ウェストレイクの著書『無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体』では、これまで計測できなかった無形資産の全貌を初めて包括的に分析している。これまでは投資と認識されていなかった「研修」について、著者たちはどのように分析しているのだろうか。本書を一部抜粋・編集のうえ、お届けする。

無形投資は本当に投資と言えるのか?

ほとんどの人は、ソフトウェア、研究開発、新製品開発が投資だという発想をかなり直感的に理解してくれる。投資というのは、(a)お金がかかり(b)長期の収益を生み出すと期待され、それ以上に(c)その投資を行っている企業が、その投資収益の十分な割合を享受できる見込みがあるようなものだ。

『無形資産が経済を支配する』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

マーケティング、組織資本、研修は本当に投資なのだろうか? 人によってはマーケティング――特にブランド構築のための広告部分――は企業同士のゼロサムゲームでしかないと論じる。こちらのブランドが市場シェアを獲得すれば、あちらのブランドはそれを失う。

また組織開発に使われるお金は、書類作業を増やして無意味な仕事を作るだけだと言う。そして研修はそれを行う企業にとってではなく、研修を受けた人物にとっての資産を作り出すのだから、除外すべきだという人もいる。

こうした批判はどれも真実の一面をとらえているが、だからといってこうした支出を投資から外すほどではない。

最初の反論、つまりブランディングがゼロサムゲームであって、売り上げを、例えばコカ・コーラからペプシにシフトさせるだけだという指摘を考えよう。これはそれ自体としては、それが投資であることを否定する議論にはならない。

アメリカン航空が新しい航空機を買ってブリティッシュ・エアウェイズから市場シェアを奪っても、それが投資ではないという人はいないだろう。むしろ問題は、A社による投資がB社の資産価値の低下をもたらすか、ということだ。もし資産価値の低下が100パーセントなら、経済における純実質投資はゼロだ。

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