新幹線N700S、試験車と量産車の「超」微妙な違い 2年かけ磨いた技、7月のデビューで本領発揮

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N700Sの確認試験車と、今回披露された量産車ではさらに細かな違いが生まれている。

N700AやN700S確認試験車にあった運転台窓上のフック(下写真)が量産車(上)にはない(撮影:梅谷秀司/尾形文繁)

例えば、先頭車では、従来の新幹線車両やN700Sの確認試験車まで運転席の窓の上にあったフックを「必要かどうか議論した結果、不要とした」(担当者)。車両後部にある「ツノ」のような静電アンテナは、量産車では低騒音化のため形状を変更したという。

先頭車の台車スカートの形状も変わり、側面のロゴは“色が濃くなった”ようだ。

室内では、全号車の客室天井部分に防犯カメラを設置した(確認試験車は一部車両のみ)。緊急時に乗客と乗務員が会話するための通話装置は、指令所係員とも話せるように機能を強化し、数も増やした。

「見えない部分」がさらに進化

量産車で進化したのはやはり「見えない部分」だ。1編成のバッテリー装置は試験車の4台から8台に増やした。「非常時に東海道新幹線のすべてのトンネル・橋梁から脱出できるようにした。普段使いでも車両基地での入れ替えなどに一部自走システムを用いることを検討している」(担当者)という。

量産車の静電アンテナ(上写真)は低騒音化のため形状を変えた。下は試験車のアンテナ(撮影:梅谷秀司/尾形文繁)

乗り心地のさらなる向上を図った「フルアクティブ制振制御装置」はグリーン車(8・9・10号車)のほか、先頭車(1・16号車)とパンタグラフが付いた5・12号車に搭載する。従来のセミアクティブダンパに小型モーターとポンプを取り付けた装置で「自ら力を発生させることで揺れを抑える能力が向上した」(担当者)。初期の確認試験車ではグリーン車の車両のみに付けられていた。

JR東海新幹線鉄道事業本部車両部の田中英允担当部長は、量産車について「試験車で確認した成果はすべて取り込んでいる」と強調する。フルアクティブ制振制御装置のチューニングや、バッテリー自走システムの試験にはとくに力を入れたと明かす。

N700系シリーズで「Supreme」(最高の)という期待が込められたN700Sは、さらに上を目指して技術に磨きをかけてきた。その本領は4カ月後に開始が迫った営業運転で発揮されることになる。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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