トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義
他の日系CVCだと、自社のファンドを他のVCに預けて、そのVCに資金の運用、つまり投資を行ってもらう(LP、Limited Partner)ことが多いが、TAIVは2億ドルのファンドを、GP(General Partner)として自分で投資先を決める。
なお、投資決裁については本社の承諾が不要とのことだ。スカウトチームは5名で、内部のテックデューディリジェンス(技術評価)担当、トヨタ本社との調整担当、ファンドマネージャーなどで構成されるため、バランスよく投資先の評価ができる。このように独立性が高いため、2週間~3カ月で投資決定をするなど、シリコンバレースピードで進むことができるのだ。
TAIVは本社に稟議をはかったり、決裁を待ったり、細かいことまで調整するといった日本企業の現地法人にありがちなステップも不要だ。アメリカにあるCVCとして、有望なスタートアップを見つけ、効率よく投資案件を回すことができていると言える。
もちろん、トヨタ本社側にも、そこまでの覚悟があるともいえるであろう。
業界の変化の兆しもいち早く察知
将来トヨタのビジネスにつながることに重点を置いているため、業界に詳しい社員の推薦や同業他社評価を重視している。TAIVとTRIは、社員が多国籍で非常にアメリカ企業らしいが、その多国籍社員のネットワークでいろいろな国の注目企業の情報を入手している。デューディリジェンスの際も多様性が役に立つ。なお、CVCやAI関係の投資ファンドの世界は実は業界が狭く、同業者と親密であるため、比較的正確な情報を収集することができる。
ベンチャー企業を評価する際、破壊的テクノロジー、新ビジネスモデル、ROI(投資利益率)、スタートアップ自体の企業文化(以前のエンジェル投資家の記事『アメリカで活躍する「エンジェル投資家」の正体』にも書いているように、指導可能な会社かどうかは重要)などを重視するが、自力で経営させるため、マイノリティー投資を貫徹している。
同社のポートフォリオは、10年スパンで他のVCとあまり変わらない期間だが、長期的に見てシナジーがある基盤を育成することも重視。道路、歩道、海上、航空などの交通・モビリティなど多岐にわたる分野で、AI、自動運転、ロボティクス、クラウド、データといった基盤技術を持つスタートアップ(例えば、シャトルバスの自動運転、スクーターのシェアサービス、船舶の自動運転、空飛ぶタクシー)への投資をしている。
数年で事業化を狙うというよりは、周辺領域への投資活動を通じて、将来、破壊的テクノロジーを持つ企業が出てきていないかなど、変化の兆しをいち早く察知しようとしているようだ。
ソフトウェアに比べ、ハードウェアの発展に時間もお金もかかるため、トヨタはそれを育てることに「責任」を感じている(伊藤氏)ようである。
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