トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義
近年、世界の大手企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がますます活躍するようになっている。グローバル化が進むビジネス環境で生き残り、企業の将来の成長を図るために欠かせない存在ともいえる。CB Insightsの報告によると、2018年のCVC投資額は約530億ドルに達し、2017年より47%も増加した。投資件数は2740件で前年度比32%増になった。
日本のCVCも成長している。2018年の投資額は2017年から倍増し、14億ドルになった。2018年においてグローバルで最も活躍したCVCのランキングTOP10で、日系のSBI InvestmentとMitsubishi UFJ Capitalが6位と9位にランクインした(他のアジア系は中国系3社、韓国系1社)。
国別にみると、日本だけでなく、世界的な企業が増加してきた中国や韓国のCVCが徐々に存在感を高めてきているが、やはりアメリカのCVCは規模(日本の13倍の265億ドル)も大きく、件数(日本の3倍の1046件)も多い。特にカリフォルニア州はアメリカの中でCVC投資を最も活発に行っているところで、投資金額も投資件数もアメリカ全体のほぼ半分を占めている。
その中で、着々とアメリカのスタートアップに投資しているトヨタ自動車(以下、トヨタ)のCVCがあるのをご存じだろうか。
シリコンバレーを拠点に展開するCVC、「Toyota AI Ventures」(以下、TAIV)だ。設立から3年弱ですでに27社に投資、投資先はすべてトラクションの増加(成長の兆しが見えている)や次ラウンドの資金調達を実現しており、すでにそのうちの1社がイグジット(EXIT、売却して利益を得ること)した。
「新しいCVCとしては『優秀な』滑り出しだ」(アメリカのベンチャー投資に詳しいTakashi Kiyoizumi(清泉貴志)氏)と評価されているのだ。
2020年1月、TAIVのシニアコーディネーターの伊藤輝之氏にインタビューした。伊藤氏は2007年UCLA卒業後トヨタに入社。2019年1月より「Toyota Research Institute」(以下、TRI)に出向している。日本国内ではあまり知られていない同社を紹介するとともに、シリコンバレーで順調に事業を進めている理由を分析したい。
親会社からもトヨタからも「自由」
TAIVは、トヨタが出資している研究所であるTRIが2017年に設立した100%子会社だ。このCVCが順調な背景には、その親会社であるTRIの「自由」「ローカル」といった企業風土がある。
まず親会社TRIの紹介をすると、2016年1月に設立されたTRIでは人工知能(AI)・自動運転・ロボティクスなどの研究開発を行っている。「敢えて」自動車メーカーのトヨタを強調せず、比較的「自由(独立・自律の意味をする)」に研究開発を行う「ローカル」な研究所だ。その理由に、まず、一般の日本企業の現地法人と違い、CEOに自動運転業界で著名なギル・プラット博士(元国防高等研究計画局(DARPA))を起用し、14人の経営陣の中で日本本社からの常駐取締役は木田淳哉氏のみとなっている。
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