特に大きな衝撃を投げかけたのは、2015年5月に韓国で流行したMERSだ。重症の肺炎を起こして致死率も高いという情報に、日本国内でも不安の声が聞かれたものだ。
韓国でのこの流行は2カ月あまり続き、収束までに186人の感染者と38人の死亡者が出た。致死率は約20パーセントにも上り、延べ1万人以上の人たちがMERSウイルスにさらされた疑いがあるとして隔離の対象となっている。
韓国内の流行の最初の感染者は、2015年5月にバーレーンから帰国した60代の男性で、中東への渡航歴があった。とはいえ中東滞在中に感染源や感染患者との接触はなく、感染源も感染経路も不明だったという。
いずれにしてもこの男性が帰国後に複数の医療機関を次々と受診し、最終的に入院したソウル近郊の病院で大勢の人たちに2次感染を起こし、感染拡大の発端となったのだった。
韓国でMERSが流行したときには、こうしたスーパー・スプレッダーが数人確認され、それが感染拡大の要因になったと推測されるそうだ。
MERSの正体
MERSは、MERSコロナウイルスの感染によって起こる。2〜12日程度の潜伏期間のあと、風邪のような発熱、咳、息切れなどと、さらに急速に重症化していく肺炎がおもな症状で、約3割の患者は下痢も伴う。
そのためWHOは、2013年にMERSの最初の感染患者が確認報告されて以降、SARSのように国境を超えた流行を起こすのではないかと警鐘を鳴らし続けているそうだ。
これまでMERSと確定された全患者が呼吸器の症状を訴え、ほとんどが重症の急性呼吸器症状で入院。重篤なウイルス性の肺炎に加え、急性呼吸促迫症候群(ARDS)や多臓器不全も起こし、多くの場合で腎不全も起こしているという。
また糖尿病や慢性肺疾患、免疫抑制・不全などの状態のような基礎疾患のある人は重症化しやすく、当然ながら高齢者もハイリスク。事実、韓国での犠牲者の多くが、基礎疾患を持った高齢者だった(もちろん基礎疾患のない若い成人でも重症化した症例はあるため、注意は必要)。
ただしMERSはいまなお不明点が多い病気である。中東でのMERS患者の死亡例の多くがイスラム教徒であり、宗教上の理由から解剖がほとんど行われていないことも、病態の解明を難しくしているのだそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら