クルーズ船乗客下船、日本の新型肺炎対策の限界 19日から陰性客を解放だが、すでに市中感染

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テレワークとまでは言わないまでも、当時も電話やメールで本社や関係取引先と連絡はとれた。だが、人の往来は著しく制限される。「商談をするにも、人と会うと会わないとでは、ぜんぜん違う」と言った。盛り上がりに欠けたり、その場の雰囲気というものが違うという。おのずと仕事の効率も落ちる。企業活動の停滞は否めない。

SARS発生時には村人以外の通行を禁じる対応をとった村もあったが、それは今回も同じような対応をしている村もある(2003年筆者撮影)

SARSでも、そして今回の新型肺炎でも、中国のある村では住民以外の立ち入りを禁じる看板を掲げて、村人が見張りに立つ風景があった。日本国内でも、これに似た対応をする地域が出てくる可能性はある。

2003年のSARS流行時の香港では、子どもたちがマスクをして集団登下校していた。SARSは子どもには罹りにくい、罹っても軽症とされたが、それは結果であって、当時は子どもたちを守ることに懸命だった。

今回の新型コロナウイルスも、子どもにどう影響するかわからない。すでに和歌山では10代の感染者が出ているし、北海道ではラベンダーで知られる中富良野町で21日に10歳未満と10代の男子児童の感染も確認された。小学生の兄弟で、弟が先に発症している。海外渡航歴もないという。

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さらには、武漢からのチャーター便で父親と帰国した埼玉県在住の未就学の男の子にも感染が見つかっている。帰国当時は陰性であったにもかかわらずだ。

これから受験シーズンが本格化し、卒入学シーズンへと向かう。人の集まる機会も増える。受験生にとって、インフルエンザ対策は例年のこととはいえ、今回はまったく違ったウイルスだ。

致死率が低くても感染者数は非常に多い

WHO(世界保健機関)によると致死率は2%と、SARS(致死率9.6%)よりも低いとされる。毎年流行するインフルエンザでも、日本国内で近年は約3000人が命を落としている(致死率0.1%)。

2003年当時の香港ではマスクを着用した登下校を子どもたちは行っていた(筆者撮影)

感染者の数が増えれば相対的に死者の数も増えることになるし、そんなウイルスが国内に入ってこなければ、インフルエンザで死なずに済んだはずが命を奪われることにもなりかねない。

これから日本人は不自由で手間のかかる生活を送らなければならい。すでに東京マラソンの一般参加が取りやめになるなど、大規模イベントの中止も相次いでいる。

その中で各自がウイルスから身を護らなければならない。

日本国内で感染経路不明な市中感染が広がっている今、仮に自分が感染したとしても、誰のせいにもできないし、誰かに責任を押しつけることなどできない。処置が遅れたとしても文句も言えない。その段階にきている。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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