「ジョーカー」がアカデミー賞でも絶賛された訳 史上初の「アメコミ映画による主演男優賞」
もう1つには「アメコミ映画に作品賞はあげたくないから、演技部門であげておこう」という、アカデミー会員が抱えるいまだ根強いアメコミ映画への抵抗感も影響したと思われる。
実際、作品部門に関しては、「『ジョーカー』を推したくない」という声は強かった。観終わった後に暗い気持ちになる、バイオレンス描写が強烈すぎるなどが主な理由だが、そういう人たちが一定数いるのは、作品部門の投票形式において非常に不利なのである。
作品部門の投票では、投票者に全候補作に順番をつけてもらい、1番に入れた人が最も少ない作品を外し、それを1番に入れていた人の票は次に2番を1番に繰り上げて、また同じことを繰り返す。そうやって1つの映画への支持が全体の5割に達したら、その作品が受賞する。1回で5割に達することは、まずない。傾向として、多くの人が上位3位までに入れた映画が受賞しやすい。
意見が極端に分かれる『ジョーカー』の場合、1番に入れた人もいるが、8、9番目に入れた人たちも多かったのではないかと想像される。アカデミー賞の集計を行う会計事務所大手のプライスウォーターハウスクーパースは、どの映画が最初に、あるいは2番目に落ちたのかなどは絶対に明かさないので、本当のところはわからないが。
花形部門を受賞した『ジョーカー』
しかし、『ジョーカー』が11部門という最多部門で候補入りしたのは、やはり快挙である。そのわりに2部門しか受賞しなかったのは納得いかない気もするものの、10部門で候補入りの『アイリッシュマン』はゼロだったし、10部門の『1917 命をかけた伝令』は3部門受賞とはいえどれも地味な部門(撮影、視覚効果、音響編集)だった。そんな中、「主演男優部門」という花形部門の1つを受賞できたのは、すばらしいことである。
もう1つの受賞部門が「作曲賞」だったことにも触れておきたい。ジョン・ウィリアムズやトーマス・ニューマン、ランディ・ニューマンなど、過去に受賞歴あるいはノミネート歴があるベテランを制して、誰も名前をちゃんと発音できない、アイスランド人女性作曲家のヒドゥル・グドナドッティルが受賞したのはなぜなのか。
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