「ジョーカー」がアカデミー賞でも絶賛された訳 史上初の「アメコミ映画による主演男優賞」

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それは、女性にあげないといけないというポリコレが作用したわけではなく、彼女の作曲のプロセスがいかにフェニックスの演技を助けたのかが伝わっていたからである。

通常、映画のサウンドトラックは製作過程の後のほうで作業がなされるものだが、トッド・フィリップス監督は撮影開始前に脚本を彼女に渡し、作曲を始めている。

彼女は、5歳から弾いているチェロを使って、主人公であるアーサーの悲しい心を表現する曲を作り始めた。その作業も進んでいた中、撮影中のある日、フィリップスとフェニックスは、どうもしっくりこないと感じ、「アーサーが悲しいダンスをするシーンを入れてみようか」と提案。

そこでフィリップスは、すでにグドナドッティルからもらっていたチェロの曲をスピーカーでかけ、フェニックスは即興でダンスを踊り始めたのである。

その瞬間について、フェニックスは、「あの音楽にはとても親密で生々しいものがあった。それが僕の中で何かを喚起してくれた」と語っている。その日の映像をフィリップスはグドナドッティルに送り、彼女はそこからまた新たな曲を書いた。そんなふうに、音楽はこの映画を作り上げていくうえで、とても重要な役割を果たしたのである。

『ジョーカー』は決して敗者ではない

アワードシーズン前半に、その話がロサンゼルスのラジオや新聞で扱われたのは、『ジョーカー』のキャンペーンチームの功績と言っていいだろう。もちろん、それ以前にフィリップスの功績でもある。残念ながら、監督賞はポン・ジュノに取られてしまったが、それでも彼をかわいそうと思う必要はない。今回の作品部門候補作9本中、ボックスオフィスの王者は世界で10億ドルを売り上げた『ジョーカー』だ。

リスクを恐れるスタジオが予算を抑えたがるのを受け、ギャラを減額するかわりに収益に応じてお金が入る契約にしたことで、フィリップスは、結果、相当に儲けたと言われている。『パラサイト』が今回の最大の勝者なのは間違いないものの、『ジョーカー』も決して敗者ではないのだ。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
X:@yukisaruwatari
 

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