日産がアメリカで陥った販売不振の深刻度 薄利多売で拡大したゴーン時代のツケは重い
ある日産ディーラーの店長がその具体例を明かす。「仮にある車種を前月に50台売ったとすると、今月は20%増の60台を売れば1台当たり600ドルもらえる。でも20%減だったら、最低限の200ドルしかもらえない。だから期限が近づくと、無理してでも大幅値引きして売っていたよ」。
車種ごとに報酬額が異なる月間目標のほかにも、四半期の目標では車種を問わずにとにかく販売台数を達成することが求められ、ディーラーはインセンティブ欲しさに極端な安売りを常態化させていた。
しかし、アメリカ市場の成長が頭打ちになると、日産の拡大戦略は行き詰まった。値引きしても以前ほど売れなくなり、「1台当たりの採算性が低かろうが、台数を伸ばして利益の絶対額を増やす」という従来の方程式が成立しなくなったからだ。
その結果、北米事業の収益は2016年度から急速に細り、日産の連結業績は大幅に悪化。2019年度上期も北米での利益は365億円と前年同期比で57%減った。かつて全社利益の5割をも稼いだ北米事業は、今や経営のアキレス腱になってしまったのだ。
値引き減らすと売れず
収益が悪化したアメリカ事業を立て直すため、日産は現在、「量から質への転換」と銘打って、販売戦略の見直しを進めている。
複数のディーラー関係者によると、日産は2019年夏ごろ、日産に安売り体質を浸透させた元凶ともいえるステアステップ制度を廃止した。値引き原資となるインセンティブ総額が削られたため、ディーラーによる以前のような投げ売り同然の極端な安売りは減った。その結果、足元の販売台数が大幅に落ち込んでいる。
1台当たりインセンティブの金額は前年を下回る水準で推移している」。日産のスティーブン・マー最高財務責任者は、アメリカでの販売改革が順調なことを強調する。が、大幅な値引きを前提としたインセンティブ漬けの販売手法が完全に変わったとは言いがたい。
アメリカの調査会社オートデータによると、日産車の2019年11月の1台当たりインセンティブは平均4659ドル(約51万円)。依然としてトヨタやホンダの2倍近い水準だ。4574ドルだった2018年11月と比べても、むしろわずかながら増加している。これは目標達成時に支払われるステアステップを含まない通常のインセンティブを調べたデータだ。
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