発達障害の「診断名」に振り回される親子の悲劇 その子の興味関心すら「症状化」してしまう

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時にそういったジャンルで話をしようとすると、「僕は、それはあまり好きではない」と言われたりもします。微妙にみな好みが違うのです。

そういうこだわりを僕は、つくづくおもしろいなあ! と感じますし、奥が深いなあ、と痛感します。「こういうタイプの子って、やっぱり電車が好きですよね」とひとくくりにされた日には、彼らから異議申し立てが出るんじゃないかと思うくらいです。

●発達障害は「生活障害」になるときに診断されるもの

僕は、発達障害とは発達が障害されているのではなく、生活に支障を来して「生活障害」になるときに診断されるものであると考えています。ですから、僕は「発達障害の診断」は正直、なかなか難しくても、「生活障害への応援」はそのときそのとき、できる範囲で設定できると思っています。

生活における具体的な応援を考えていくうえでは、「発達障害」というものさしも参考にしながら、同時にその子がどういう力を持っていて、何につまずいているかも診立て、「友達関係はどうかな?」「運動面でコンプレックスはないかな?」「学習面でついていけているかな?」といった生活場面にも注目し、その子の日常につながる手立て、生活の質を上げていくプランを考えていきます。

●「自分でわかるバカならそれほどひどくない」という慰め

学校生活では、学習が進むにつれてだんだん「できなくなる」子も出てきます。僕が昔担当していた小学生の男の子は、「みんなができて僕だけできないとき、『あー、これがバカってことか』と本当に自覚したんだ。でも自分でわかるくらいだからそれほどひどいバカじゃない。大丈夫って、自分で自分を慰めていたんだ」と語りました。

発達の偏りからくる学習のつまずきは、ただただ丁寧に繰り返し教えれば解決するというものではないことが多々あります。また、そういった子どもたちは得意なことと苦手なことがはっきりしている傾向があります。

そういう場合は、苦手なことを克服させようとする関わりよりも、優れているところをもっと伸ばしていくという関わりのほうが重要となります。

その子のペースで必ず成長していく

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本人の努力が足りないという誤解を解くために、そもそも自分で自分を慰めるという思いをさせないために、大人は正しく関わり、本当の力を引き出して、「ほら、ちゃんとできたね」と褒めること。それを一番の目標とすべきだと僕は考えます。

親御さんは、わが子の育ちの不安や課題に注目していけばいくほど、その子が見せる日々のちょっとしたうれしい変化に気づきにくくなり、喜べなくなってしまうこともあります。

でも、どの子もその子のペースで必ず成長します。親が設定した目的には沿わずとも、どの子も結果としての育ちを見せてくれます。そのことを親や家族には喜んでほしいのです。僕からしたら、そういった瞬間は「よかったよね、うらやましいよ」と言いたくなるものです。

そんな一瞬一瞬を家族と共有しながら、その子の成長を一緒に喜んでいきたいと思っています。そしていつも、家族が一緒に関わる子育てにより、関係が安定したり、元気になったりすること、そして何よりも日々の生活を楽しめることを願っています。

田中 康雄 「こころとそだちのクリニック むすびめ」院長

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たなか やすお / Yasuo Tanaka

北海道大学名誉教授、児童精神科医師、臨床心理士。1958年栃木県生まれ。1983年に獨協医科大学医学部を卒業後、旭川医科大学精神科神経科、同病院外来医長、北海道大学大学院教育学研究院教授、附属子ども発達臨床研究センター教授などを経て現職。発達障害の特性を持つ子どもとその家族、関係者と、つながり合い、支え合い、認め合うことを大切にした治療・支援で多くの人から支持されている。『ADHDとともに生きる人たちへ: 医療からみた「生きづらさ」と支援』(金子書房)など著書多数。

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