米大統領選始まる、「トランプ勝利」は五分五分 民主党候補はバイデン前副大統領が優勢

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――アメリカとイランの対立はどのように影響していますか。

トランプ氏へのマイナス材料とはなっていないし、大きなプラスでもない。一歩間違えれば世界経済を大混乱させる戦争になりかねない状況を招いたことへの批判は多い。

一方、アメリカ人にとってイランはテロ組織支援国家であり、その司令官を殺害したことは歓迎すべきとの見方も多い。それらが相殺し合って支持率に影響がない状況だ。

――アメリカ世論は「保守対リベラル」だけの構図ではなく、より複雑に分断されているのでしょうか。

トランプ氏は共和党をぶち壊す形で出てきた政治家だ。民主党内でもサンダース氏のように、アウトサイダー的な政治家が台頭している。ワシントンのインサイダー的コンセンサスに対する抵抗が出てきており、アメリカの政治が根本的に再編成されようとしている。

個人の自由を絶対視するリバタリアン(自由至上主義者)もそうした流れの中で拡大している勢力の1つで、社会正義を重んじる点では民主党派だが、大きな政府を否定する点では共和党派という、従来どこにも属さなかった人たちだ。

リバタリアンと逆に、共同体としての価値を重んじる一派も存在する。白人至上主義者などがそうで、民主党も共和党も間違っていると主張している。アメリカが食い物にされるグローバリゼーションはやめて、ナショナリズムをもっと重んじるべきというのが彼らの立場だ。トランプ氏が国境の壁をつくったり、国際的枠組みから抜けたりするのもまったく同じ世界観だ。

「アメリカ第一」というのはクー・クラックス・クラン(KKK)のスローガンでもあった。こうした考え方は、反EU・反移民の世論が強まるヨーロッパなど世界的にも広がりつつある。

ミレニアル世代が選挙を左右する

――そうした勢力が大統領選にどんな影響を与えているのでしょうか。

リバタリアンはオバマケア(医療保険制度)へ反発し、トランプ氏の独裁的政治にも反旗を翻している。前回大統領選では中西部の超激戦州でトランプ氏がわずか1%の票差で勝ったが、そのときリバタリアンの候補者が3~5%の票を獲っていた。2020年の選挙でリバタリアンが1%でもトランプ票を奪い取れば、どうなるかわからない。

ミレニアル世代(今世紀に入って成人した世代)はリバタリアンに共鳴する人も多く、今回の選挙から有権者の最大勢力になる。民族や人種といった属性で差別する社会に対し、彼らは本質的に反発する。社会的にはますますリベラルになる一方、経済的には民間活力やデジタル技術を使って変革していくという考え方が今後主流になる可能性がある。

――今後の日米関係についてどう考えますか。

アメリカは今秋まで選挙モードになるので、日米貿易交渉の第2ラウンドで何か成果をもぎ取ろうとしてくるだろう。安全保障分野でも、日米同盟を維持する代わりに日本が防衛予算を増やし、アメリカの製品をもっと買うよう圧力を加えてきそうだ。

同盟国に負担を求めるトランプ氏の世界観の素地は、長期的に残り続ける可能性がある。アメリカの従来どおりのコミットメントを期待しにくくなっており、日本は自らできる能力を拡大する必要が出てくる。同時に、アメリカに対し同盟の重要性を説いていく必要がある。

価値観を共有するオーストラリアやイギリス、インドなどの国々との連携を深めていくとともに、中国とも敵対的関係は避け、気候変動などの分野で協力しながら(中国に)自制を促していく関係を構築していくことが重要だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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