新型肺炎、SARS流行時に学ぶ次の危険シナリオ 中国では野生動物との距離感が余りにも近い

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それと、もうひとつ。

SARSは、野生のハクビシンが持ち込み、媒介してヒトに広まっていったとされる。

当時、広州市の野生動物市場でも、中国当局の指示ですぐさまハクビシンの取り扱い、販売は禁止されて、私が現地を訪れたときにも、どこにもハクビシンの姿を見ることはなかった。

だが、2003年当時の中国はコネが優先する社会であった。地元の住人の協力を得て、市場内のある店に交渉すると、奥から布を被った檻に入ったハクビシンを出してきた。

市場で出されたハクビシン(筆者撮影)

私が目にしたハクビシンは、前足の片方の先がなかった。仕掛けたワナにはまって、そのままもげてしまったのだという。ペットにするわけでもなく食用なので、そんなことは気にする必要もない。

むしろ、それが野生の獲物であることを物語る。

ハクビシンは風邪の予防によいとされて、現地では冬の前によく食される。ちょうどSARSの発生の時期と重なる。

今回、中国当局はSARS発生時同様、武漢の市場でも家禽の売買禁止、野生動物・家禽が武漢市内へ入るのを防ぐ封じ込め対策を進めているが、どこまで効果があるかは未知数だ。

新宿で大発生しているハクビシン

最後に、日本に持ちこまれた新型コロナウイルスが野生(というより、都市部に棲息する)動物を媒介に感染拡大する可能性にも言及しておく。

ハクビシンが、いま東京都内で大量に発生しているのをご存じだろうか。

たとえば、新宿区のホームページを覗けば、ここ十数年の間に、アライグマといっしょに急速に増えはじめ、対応に追われていることがわかる。都内での駆除数は毎年、数百頭単位で推移しているが、それでも追いついていかない。同区が貼り出した「野生鳥獣にエサをやらないで!」という注意書きポスターにはハトといっしょにハクビシンの絵まで描き込まれている。

「野生鳥獣にエサをやらないで!」という注意書きポスター(筆者撮影)

東京に持ち込まれた新型コロナウイルスを、再びハクビシンが媒介しないとも限らない。そうでなくとも、ハクビシンやアライグマは複数の人獣共通感染症を持つことで知られる。新型コロナウイルスも、タケネズミやアナグマが感染源とする中国専門家チームのコメントも報道されている。

今回の新型コロナウイルスは、どのくらいの感染力なのか、どのくらいの毒性なのか、いまのところ定かではない。

あるいは、どのように変化していくのか、現時点では予測もつかない。感染が広まらなければ、それに越したことはない。

とはいえ、これだけ地球規模でヒトの移動がたやすくなった時代だ。春節を迎え、中国人が日本に押し寄せている。中国の旅行会社の調査によれば、中国人観光客に人気の旅行先1位は日本だそうだ。SARS発生当時と比べ、訪日中国人の数は20倍以上に膨らんでいる。

過去の経験に学ぶのであれば、少なくともここに記しただけのことは知っておきたい。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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