東芝子会社で発覚、広がる「架空取引」の波紋 メガバンク系など5社以上が関わった疑い

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今回の取引の特徴は、どのルートでもネットワンを起点に日鉄ソリューションズからさらにネットワンへという共通の流れがある。東芝ITサービスや富士電機ITソリューション、みずほ東芝リースの3社はいずれも「架空取引であったことを認識していたことを示す事情が認められない」という趣旨のコメントや発言をし、架空取引に主体的に関わったことを否定している。

関係者によると、東芝ITサービスの担当者はネットワンの担当者から「日鉄ソリューションズに機器販売をしたいが、間に入って欲しい」との話があったという趣旨の説明を調査委員会にしている。その際にネットワンの担当者からは「官公庁の秘匿案件のため、実際に機器を納入するのはネットワンが直接行う」との趣旨だったという。東芝ITの社内からは機器の購入先も納入先もネットワンになっている資料が見つかっており、ネットワンが価格や販売ルートをすべて調整していたのではないかとみられている。

増える中堅・中小企業の循環取引

実際に販売先の代理店を通さないで、機器を販売する商慣行自体はIT業界で普通にある。今回は入金も確認されていたため、東芝ITの担当者が架空取引に気づかなかった可能性はある。ただ、東芝ITでは5年前からこうした取引が始まっているとみられ、1件の取引額は数十億円以上に上ることもあったという。東芝ITの売上高はここ数年で急増しており、今後の調査結果が待たれる。

企業の信用調査などを手がける帝国データバンク横浜支店の内藤修情報部長は、「最近は中堅・中小企業が循環取引で破綻するケースが少なくないが、循環取引は破綻するまでプロでも見抜きにくい。売上高が増えていれば(成長会社として)融資を増やす金融機関も多く、被害に巻き込まれている」と話す。

「1社が資金繰りでおかしくなると、バタバタと連鎖してつぶれる」(内藤部長)ことも循環取引の特徴だ。2019年11月末には、20代女性向けに人気のカラーコンタクトレンズ「DopeWink」などを主力としていたシーンズが民事再生法の適用を申請。負債額は45億円にのぼった。循環取引の噂は出ていたが、取引先1社の破綻をきっかけに数社がつぶれる事態になっている。

大企業による循環取引も後を絶たない。IT大手のニイウスコーは2008年に過去5会計年度にわたる循環取引で売上高682億円の過大計上をしていたことを発表し、民事再生法適用を申請して事実上破綻。冷凍食品の加ト吉(現・テーブルマーク)は2007年に循環取引が発覚し、日本たばこ産業(JT)に救済された。

今回の循環取引はまだ全貌が明らかになっていない。ネットワンは1月21日、1月30日に予定していた決算発表を2月13日に延期すると発表した。関係各社の決算発表も今後本格化する。どこまで説明がなされるかが注目される。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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