「精神病床数」が世界一レベルに多い日本の異様 精神疾患を持つ人の出口戦略を考えるべきだ

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例えば宅配便の倉庫で、仕分け作業で就労している知的障害者の男性、また夫のDVで右足の身体障害を抱えているうえに、今度は20歳になった発達障害の息子の暴力で精神障害者(PTSD)となった女性は、就労支援施設に通い地域新聞のポスティングなど軽作業の仕事をしている。

費用の計算をしてみよう。このグループホーム入居の家賃3万7000円、食費2万5000円、日用品3000円、光熱費1万3000円、計7万8000円。家賃補助が国庫から1万円、地方自治体から1万円が利用者に支払われ、自己負担は5万8000円となる。しかし障害者年金6万5000円、就労による収入が別途あるので生活費には余裕が生じる。

グループホームは、利用者4人に対して職員1人の配置基準にしたがえば、7軒のホームに27人がいる場合は、職員数は7人となる。グループホームに支給される事業費は2000億円(「共同生活援助」サービス費)で、入居者27人に対して1人16万円給付されるので432万円、これがグループホームの運営費(人件費含む)である。人件費が月額20万円なら7人で140万円、30万円なら210万円、つまり他の支出を入れても高い利益率が確保できる。

犬と猫が果たしている大きな役割

グループホームなら精神科病院の入院患者は半分のコストで済む。だが退院がしっかりと社会への通路になっていないと、また舞い戻ってしまう。グループホームは孤独からの帰還のプロセスである。

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玄関に犬が出迎えた、と書いた。1軒に1匹の犬がいる。アニマルセラピーによる障害者の癒やし効果がようやく証明されはじめた。このグループホームのリビングでは会話が得意でない精神障害者に対して犬がコミュニティーの中心になっていた。

わが国の人口1億2500万人に対し、全国に犬が約1000万頭、猫が約1000万頭いる。過剰ではないか。殺処分、犬1.6万頭、猫6.7万頭という現実がある。わおん障害者グループホームでは殺処分される前の保護犬・保護猫を動物保護センターから引き取って、各ホームに供給している。

首都圏や大都市圏の郊外には、かつての高度経済成長の時代に造られた庭付き一戸建ての住宅が余っている。八千代市のグループホームはかつてサラリーマンが夢見た小奇麗なマイホームだった。いま空き家は売れない。売れても安く買いたたかれる。そのままだと固定資産税の負担が残る。家賃12万円ほどもらえれば家主は喜んで貸したい心境になる。

医療費削減だけでなく、障害者も健常者も共存できるノーマライゼーションの社会、就労促進、空き家対策、ペット殺処分対策とあわせて、課題先進国・日本の処方箋のひとつがここにある。一石二鳥どころか三鳥、四鳥は、市場の力を借りて成し遂げていけばよいのだ。

猪瀬 直樹 作家

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いのせ なおき / Naoki Inose

1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。2007年6月、東京都副知事に任命される。2012年12月、東京都知事に就任。2013年12月、辞任。2015年12月、大阪府・市特別顧問就任。

主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』(以上、中公文庫)、『ペルソナ 三島由紀夫伝』(文春文庫)、『黒船の世紀』(角川ソフィア文庫)など。

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