生還者が初告白、「海王丸」を襲った台風の恐怖

167人の実習生襲った恐怖、水迫る密室で何が

翌朝、海上保安庁のヘリが現場に到着した。上空から船の様子を見つめるのは、救助のエキスパートの中でも精鋭ぞろいの特殊救難隊だ。だが、そんな彼らですら、依然強い風が吹き大波が甲板に押し寄せる中では、救助活動を始めるわけにはいかなかった。

海上保安庁による救助活動(写真:海上保安庁提供)

しかし隊員らは意外な決断を下す。その訳は、今回取材班が入手した海上保安庁の未公開を含む58枚の写真に写り込んでいた。ヘリに乗り込んだ隊員が撮影したその写真は、大波が打ち寄せる船橋脇で助けを待つ、3人の乗組員の姿を記録している。

全員が船内にいると思っていた隊員たちは、この甲板の人影に驚いた。このままではあの3人がいつ流されてもおかしくない。隊員たちは救助開始を決断した。

この事故を大きな教訓に

決死の覚悟でなんとか甲板に降りた隊員。乗組員3人のところまでたどり着き、順番にヘリでつり上げていく。しかし、2人目をつり上げようとしたそのとき、隊員の1人が一瞬の隙を突かれ波にのまれて海に落ちた。もうダメか……。しかし海面に浮かび上がる人影が。波にもまれながらもパニックにならず、救命胴衣の備えもあったため、助かったのだ。

乗組員(左下・青色の服にオレンジの救命胴衣)の救助にあたる海保の特殊救難隊(写真:海上保安庁提供)

その後甲板にいた乗組員3人の救出は無事成功する。そして午前11時ごろ……波が収まったころを見計らって、海保の隊員たちは暗い船内へと降りて行った。

こうして、暗闇の中で17時間ものあいだ溺死の恐怖と闘い続けた宮﨑さんたちは、全員無事生還したのだ。

自然はわれわれの想像をはるかに超えて猛威をふるってくる。強風や波の力で見るも無惨な姿になった海王丸は事故後、元の美しい姿に修繕され、今も練習船として運航、この事故を大きな教訓としてより一層安全訓練を強化し、日本の海上輸送を支える船乗りたちを育成している。

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