春名風花さん、誹謗中傷に苦しめられた10年間 ネット中傷に法的措置「絶対に引きません」

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春名さんが年齢を重ねるにつれ、ツイートが話題になるたび噛み付いてくる「野次馬」のような人は減ったが、「長年のアンチ」からの誹謗中傷は続いた。

爆破予告の犯人が捕まらなかったり、中傷に言い返さなかったりするたび、「誹謗中傷自体が、自作自演だろ」と言われた。

警察も対応してくれず、残された手段は民事裁判。とはいえ、お金もかかるためすぐには踏み出せなかった。

さらに、裁判を起こしても、費用倒れのリスクもあると知った。2018年10月、のちに代理人となる田中一哉弁護士に相談した際、「身元を突き止めたとしても、相手が賠償金を払えないケースがある」と説明された。

ツイッターに請求して開示される情報は、IPアドレスとタイムスタンプのみ。そこから投稿者が利用したプロバイダーがわかれば、そのプロバイダーに対して、投稿者の情報(住所、氏名、メールアドレスなど)の開示を求めることになる。

インタビューに応じる春名さん(写真:弁護士ドットコム)

そうして初めて、投稿者に損害賠償を請求することができるが、ようやく身元が判明したところで、相手が賠償金を支払えるかどうかはわからないのだ。

お金をかけて頑張って裁判しても虚しさしか残らないかもしれない――。春名さんは「本気でやるぞ」と覚悟を決め、仕事のあいまにコールセンターでアルバイトをして裁判費用を貯めた。「来年からの大学在学中の生活費と学費のために貯めていたお金も裁判費用に回すことになって、悲しかった」とこぼす。

悪い人が得をする世界?

まだ未成年でもあり、父が裁判を起こすことに反対していたことから、母が原告となった。ツイートは「彼女の両親自体が失敗作」などと母のことも誹謗中傷していた投稿者を対象にした。

2018年11月、ツイッターに開示を申し立てたところ、12月末にタイムスタンプから4つのプロバイダーが判明。そこから投稿者の情報を持っている可能性の高いプロバイダーから、順に発信者情報開示請求をおこなったが、結局4回目の裁判でようやく投稿者が判明した。「こんなにいろんなところと裁判しなきゃいけないんだ」と思った。

「なぜボクはバイトをしているのだろうとか、この裁判のためのお金があったら他にいろんなことできたなあとか、思ってしまう瞬間があって苦しかった。悪い人を懲らしめるのには、たくさんの手続きが必要。悪い人が得をする世界だと思った」

裁判でのプロバイダーからの「権利が侵害されたことが明らかであるとは言えない」といった反論にも押しつぶされそうになった。「早く情報を出してほしいと思った。被害者側からは不信感が募った」とこぼす。

次ページ「被害者が裁判を起こすことの何がいけないのか」
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