コンビニが「個人商店を駆逐する」日本のヤバさ 地方金融機関がどんどん体力を失っている
その一方で、今回契約解除の通告を受けた東大阪のオーナーなどの場合、例えばフランチャイズ契約を解消して、「独立自営の食料品店」として自立していくということは可能かと言うと、現在の環境では非常に難しいのが現実です。
よく考えると、日本でも昔は「自営の食料品店」というのは、どこにでもあったように思います。例えば、肉屋をベースに調味料や菓子など多岐にわたる商品を扱っていた店、酒屋をベースに「乾き物」や袋菓子、清涼飲料などを幅広く売っていた店、米屋をベースに「よろず屋」的に営業していた店などが、1980年代までは日本中で多く見られました。
そうした店の場合は、完全に個人経営であって経営の基盤は安定していたようですし、何よりも「本部」の支配を受けてヘトヘトになるということはありませんでした。どの店も、一国一城の主だったのです。
個人経営が立ち行かなくなったワケ
ですが、現在はそうした自営の食料品店はほぼ100%コンビニに駆逐されてしまいました。あるいは、自営でやってきたけれども、フランチャイズ契約をしてコンビニに変わった店も多いと思います。
なぜ個人経営では立ち行かなくなったのでしょうか?
まずコンビニの場合は、季節要因などを含めた膨大な消費者の需要データを持っているとか、独自商品、大規模発注による商品確保といった「チェーンのスケールメリット」の要因があります。
また、近年は食の安全といった問題への対処が求められていますが、問題の防止、発生時の対処、そして消費者のイメージという点からも、大規模チェーンのほうが有利になると考えられます。
ですが、品ぞろえや食の安全の確保という問題は、個々の経営者の努力やノウハウ蓄積で乗り越えられる問題です。その一方で、現在の日本でこうした個人経営の食料品店の成立が難しくなった背景には「資金」の問題があります。
従来は個人経営の店舗は地域の金融における重要な貸出先でした。ですが、1980年代のバブル期以降、銀行などの金融機関は、個々の自営業の将来性などを判定して「与信」を行うスキルを失ってしまいました。
また、日本では「リスクの取れるマネー」が枯渇しています。個人金融資産の多くは高齢者の老後資金であり、基本的に銀行などで間接的に国債を購入する形で回っています。ですから、個人の起業などリスクのあるニーズに回す資金は非常に細いのです。地方では地場の金融機関がどんどん体力を失っているという問題もあります。
そうした金融面での構造的な問題がある中で、個人の食料品店という小規模で地域密着型のビジネスに「事業資金を供給できない」のです。これは大きな問題だと思います。だからと言って、補助金的なものをバラまいてもダメです。そうではなくて、日本の経済社会の構造を立て直す中で、この問題に取り組まなければなりません。
利益の相当な部分が本部の間接部門の経費に回る構造ではなく、その利益によって個々の自営の商店が自立し、また地域経済も自立して回るようなシステムを立て直すことが必要です。
別の観点から考えると、このまま人口減やデフレにストップがかからないようですと、重厚長大な「コンビニ本部」のコストを日本の国内消費が支えられなくなる可能性もあります。その場合には、自立した自営商店が高度に情報を共有化して仕入れと販売ノウハウを維持していくようなネットワーク型の小売チェーンが必要になります。
そのためにも、あらためて小規模な起業資金がしっかり用意できる仕組みづくりが求められるのではないでしょうか。
ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。
最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新聞出版)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。
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