日産「再建のキーマン」退任で深まる混迷 関・副COOが次期社長含みで日本電産へ移籍

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一方の吉本氏は2018年6月に日本電産の社長に就任。当初、永守氏は「潜在能力はとても高い」と評価し、権限委譲を進めていた。2019年1月に日本電産が開催した新年の賀詞交歓会で、永守氏は予定していた自身の挨拶を中止。「これからは吉本を表に出していく」と永守色を消していこうとしていた。

2019年1月の会見に姿を見せた日本電産の永守重信会長(右)。会見には吉本浩之社長も出席した(撮影:今井康一)

ところが、その2週間後、米中貿易摩擦の影響などで2018年度の業績見通しを大幅に下方修正した際には、永守会長自身も会見に出席。さらに2019年度も、中間決算(4~9月)が大幅減益となった。永守氏は「私の経営学を学ぶには最低でも数年必要」と決算説明会のたびに吉本氏をかばってきたが、成長を至上命題とする永守氏は現状に満足できていないようだ。

日本電産の経営幹部は「すぐに吉本氏を社長から交代させることはないだろう」としつつも、「年末年始に(経営陣で)話をして、今後の新しい体制のあり方を決めていくはずだった」と言う。

日産再建のキーマンだったが・・・

関氏は日産の社長になれなかったとはいえ、業績不振にあえぐ日産の再建におけるキーマンであることに変わりはなかった。

グループ全従業員の1割に相当する1万2500人の人員削減や生産能力の縮小など、構造改革の策定・実行を任されていた。さらに、どういった車をいつ投入するかを決める、自動車メーカーの肝である商品企画部門の責任者も兼任。このポジションにはルノー出身者が長年就いていたが、久々に日産側に取り戻した関氏への期待は大きかった。

関氏が担ってきた構造改革の実行と魅力的な新型車投入は、再建策の2本柱だ。ある自動車アナリストは、「(社長に就いた)内田さんはルノーとの関係を取り持つ永世中立国みたいなものだ」と言う。実際の経営の実務は「影の社長」とも囁かれてきた関氏が重要な役割を担っていただけに、退任による影響は計り知れない。

日産は関氏に代わる副COOと取締役候補の人選を急いでいる。しかし、ルノーからの過剰な干渉を排除しようとした、実力者の関氏がいなくなることで、現場のモチベーション低下に拍車がかかるだろう。日産は新体制発足から1カ月で、早くも正念場を迎えている。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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