性暴力の被害者を「嘘つき」扱いする男の不見識 「女性視点の映画」を男性監督が撮る意義

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セロンは、「この問題は、女性だけでは解決できない。男性にかかわってもらってこそ、変化は起きる」と語る。そんな彼女の心を動かした脚本を書いたランドルフは、「身近に、そういった被害に遭った女性が何人かいた」ことから、エイルズの訴訟事件に強い興味を持った。

製作を進めていく中で、ランドルフとローチは、実在の被害者の多くから直接話を聞き、さらに理解を深めている。それでも、目が醒めるような発見はあった。エイルズ(ジョン・リスゴー)のオフィスに呼びつけられたケイラが、脚を見せろと言われ、下着が見えるまでスカートを引き上げるよう強要されるシーンは、その最大のものだ。

「普通、男は、『見せたって減るものじゃないだろ』程度にしか思わない。女性にとって、それがどんなに屈辱的で、いつまでも忘れられない傷になるのか、わからないんだよ。あのシーンを撮影する日は、僕とジェイはもちろん、現場の男性クルー全員にとって、すごく辛い日になった。そんな気持ちになることを、僕らは予想していなかった」(ランドルフ)。

「公開に先立ち、テスト上映を何度か行ったが、毎回、必ず男性観客が歩み寄ってきて、『女性がこんな思いをしているとは知りませんでした』と言ったよ。女性に思いやりをもつ人たちだって、そうなんだ。また、この映画には、権力者がそれをやり続けられるよう協力する別の男たちが出てくる。『あんなの冗談でやっているだけじゃないか。大げさに言うなよ』などと、女性が悪かったように言う奴らがね。そういう“協力者”の存在にも注意をはらわないと」(ローチ)。

「女性を信じること」をデフォルトにしよう

もちろん、自分がそのひとりにならないようにも意識していかなければいけない。そう語るローチは、「この映画が日本でどう受け止められるか、すごく気になっているんだよね」と言う。

それに対して筆者が「日本でも、勇気ある女性が立ち上がってくれて、変化が起きそうなんです」と言うと、「それは興味深いな」と、非常に感慨深い表情になった。そんな彼は、男性たちに、女性を信じることを“デフォルト設定”にしようと訴える。

「この映画にも、声を上げた女性がいると『彼女は嘘つきだ』と決めつける男性が出てくる。だが、僕は、『その女性は、真実を語るためにどこまで悩んだんだろう? 名乗り出ることで攻撃されるかもしれない。失うものは、たくさんあるはず』と考える。本当の話でないなら、女性はそこまでのリスクを負うことはしないんだよ。それが僕のデフォルト。もちろん、ごくごく稀に、正直でない人もいたりする。でも、95%は真実を語っているという統計を、僕はどこかで読んだ。だから、男たちは、それが嘘だとはっきりするまで、その女性が言っていることを信じるべきなんだよ」(ローチ)。

そんな男性がひとり増えるたびに、世の中は、少しずつ変わっていく。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
X:@yukisaruwatari
 

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