声優に憧れる人が知らない「厳しい収入事情」 大塚明夫「多くの声優はローンが組めない」

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どれだけ喋ってもギャランティーは変わらないという話でいえば、『アダプテーション』という映画の吹替えをやったときのことを思い出します。

主役の2人、チャーリー・カウフマンとドナルド・カウフマンは双子の兄弟なのですが、どちらもニコラス・ケイジが演じており、声も両方私があてたのですがこれがきつかった。

なにしろ、メインキャラクター2人分を1人でアフレコするのです。台本の3分の2近くは喋ったでしょうか。思わず「2人分のギャラをくれよ」とぼやいてしまったものです(もちろんもらえませんでした)。ともあれ、声優のギャラは「発声量」には比例しない、ということです。

そういう意味で、声優にとって費用対効果が高い、「おいしい」仕事はCMだと言えます。拘束時間が比較的短いですし、1日に4本、5本と収録することも可能なのでリターンを大きくしやすいのです。

洋画吹き替えのコスパは最悪

いちばん悪いのは実は洋画吹替えで、コストパフォーマンス的には最悪です。丸1日拘束されてCMの4分の1、5分の1といった収入になることも珍しくありません。

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また、たくさんの台詞があればその分たくさんの事前準備がいります。アフレコ現場はあくまで作品を完成させる時間ですから、そこでもたもたと練習するわけにはいかないのです。

自宅で台本を読み込み、映像を見て役者の癖を把握し、何度か1人でリハーサルをする……収入が発生しない作業であっても、少なくとも私はそれを行う時間を設けています。

コストパフォーマンスのことを考えれば、ただでさえ高給ではないのだからそんな練習はしないほうがマシなわけですが、私の目的は金銭的なリターンよりいい芝居を納品することにあるので問題はありません。

がっぽり儲けるために声優をやろう、という底抜けのロマンチストが読者にいるのかどうかわかりませんが、あなたが「あわよくば一攫千金も……」と思っているのであれば改めて言っておきましょう。儲からないよ。

大塚 明夫 声優/役者

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おおつか あきお / Akio Otsuka

1959年生まれ。生まれも育ちも東京。文学座養成所卒業後、1988年より江崎プロダクションに所属。代表作に、『メタルギア』シリーズのソリッド・スネーク役、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役、『攻殻機動隊』シリーズのバトー役、『Fate/Zero』のライダー役、『ONE PIECE』の黒ひげ役。洋画吹き替えでは、スティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンなどを幾度となく演じる。

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