トランプ大統領が12月に作った2つのレガシー USMCA(新NAFTA)批准へ、まさかの法案可決

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まず第1にペロシ下院議長に対する民主党穏健派の突き上げである。

2018年中間選挙で民主党が下院を奪還した背景には、都市部郊外など伝統的に共和党が優勢な選挙区で、民主党穏健派が共和党候補に勝利したことが大きい。民主党議会選挙キャンペーン委員会(DCCC)は32人の下院民主党議員を「最前線(フロントライン)議員」と称して重視している。

ペロシ下院議長が長らくトランプ氏の弾劾調査に慎重であったのには、これら下院民主党穏健派に配慮してきた背景があった。11月末に、感謝祭休会で地元に戻り有権者と接したフロントライン議員は、トランプ氏を支持する一部有権者からトランプ氏弾劾について反感を買った。そのため、12月から1月にかけてのクリスマス休会で再び地元に戻る前に、有権者にアピールできる超党派の議会アジェンダでの成果を必要としていた。そこで浮上したのが、USMCA施行法案であった。

第2にライトハイザーUSTR代表が共和党ではなく民主党と通商連合を形成したことである。

ライトハイザー氏はトランプ政権下でアメリカ政治における新たな通商連合を構築したといえる。従来、戦後の歴代大統領は基本的に自由貿易を最終目標に通商政策を展開してきた。だが、トランプ氏は戦後初めて保護貿易政策を展開する大統領だ。

ライトハイザー氏はレーガン政権時代にUSTRで次席代表として日米摩擦を含め通商交渉を経験し、議会でもボブ・ドール上院財政委員長(当時)の下で同委員会の首席補佐官を務めるなど、トランプ政権内で唯一通商政策にかかわる政治を熟知している閣僚だ。米韓FTA再交渉妥結、日米貿易協定「第1段階」交渉妥結、米中貿易協定「第1段階」暫定合意に加え、USMCA交渉妥結などトランプ政権の数々の通商交渉の成果は、ライトハイザー氏の存在なくしてはありえなかった。

民主党進歩派を取り込んだライトハイザー氏

ライトハイザー氏は民主党が下院を奪還した後、共和党ではなく、より保護主義的な下院民主党議員に焦点を当てて交渉を重ねた。民主党進歩派コーカス創設者のロサ・デローロ下院議員(コネチカット州選出)は、クリントン政権やオバマ政権などの民主党政権が聞く耳を持っていなかったのに、ライトハイザー氏は進歩派の声を聞いてくれていると、称賛していた。皮肉にもライトハイザー氏は民主党のフロマン前USTR代表よりも下院民主党から信頼を得ていた。

ライトハイザー氏は下院民主党議員も各種の修正によって勝利宣言できることが、法案の成立には不可欠であることを理解していた。労働、環境、バイオ薬価、合意事項の施行面など民主党進歩派が望む内容を、ライトハイザー氏はUSMCA修正版に大幅に盛り込んだ。ライトハイザー氏はバイオ薬価には当初は抵抗を示したものの、労働や施行では民主党の方針がトランプ政権の方針とも一致していたため、そもそも民主党と合意しやすい状況にあった。

一部ではトランプ政権は民主党出身の大統領でも成し遂げられなかった民主党進歩派寄りの貿易協定をメキシコ・カナダと合意できたとも指摘される。アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)が貿易協定に支持を表明したのは、重要性の高い貿易協定としては1960年代の一般協定(GATT)ケネディラウンド以来となる。

米メディアはUSMCA修正版が署名された12月10日、ペロシ下院議長は下院民主党議員に対し「われわれは彼ら(トランプ政権)を決定的に打ち負かした(We ate their lunch)」と語り、民主党の成果を訴えたと報道している。

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