米排除「孔子学院」、日本で蠢く中国の宣伝工作 米中貿易戦争の裏側で「シャープパワー」外交
ただし、中国のシャープパワーが米国から排除され、攻防の場がハードパワーの領域に移っているからといって、直ちに米中戦争が起こるわけではありません。
米国による中国のシャープパワー排除の後に待っているものは、中国の断念でも米中戦争でもなく、シャープパワーを超えてにじみ出した、諜報、外交、財政、経済および軍事といった手段を攻撃的に使用するという政治戦(Political Warfare)でしょう。米中ともに戦争したくないからこそ、政治戦が戦われ、実際の軍事衝突を伴わない冷戦が構造化しようとしているのです。
日本に突き付けられる踏み絵
それでも、中国は米国社会に対する働きかけを決して諦めず、世論工作を放棄しないでしょう。実際、中国はパブリック・ディプロマシーの対象を拡大しています。米国との政治戦で不利に立たされる中、米中二国間の対立を否定し、米国対国際社会の構図を描こうとしています。新華社の報道が示すように、世界各国および地域における孔子学院の設置も拡大しています。メディア戦略やあらゆる文化交流事業も世界中で展開されています。
アフリカにおける中国のすさまじい経済進出についても周知のとおりです。現在の中国とアフリカ関係には、アフリカ諸国の政府や市民の取り込みを狙う中国当局の思惑と、中国のパブリック・ディプロマシーが果たす役割が垣間見えます。太平洋島嶼国でも、中国はここ数年、経済支援などを通じてプレゼンスを急速に拡大させています。米中の政治戦は、世界を二分する勢いで進んでいるのです。
中国のシャープパワーは日本にも及んでいます。日本ではあまり関心が持たれていないにすぎません。そして、経済領域への攻防の拡大は、日本の経済界にも大きな影響を及ぼす可能性があります。米国が、ファーウェイ、ZTEおよび監視カメラ製造企業などを米国市場から締め出し、これら中国企業の部品などを用いる企業も同様に締め出すのであれば、日本企業の多くも対象になるでしょう。
米国は、米国を取るか中国を取るか、日本政府や企業にも踏み絵を踏ませようとしているのです。
今後、米中の対立はますます複雑さを増していくでしょう。それは、日本の対応の難しさを増すことになります。
日本は、米国や中国などが展開する大国間のゲームに主要なプレイヤーとして参加できませんが、日米同盟を外交・安全保障の基盤としつつ、中国とも経済協力を進め、国際社会において有利な地位を確保しなければなりません。そのためには、米中貿易摩擦のように単純にステージを上げ下げする対立だけでなく、水面下で、しかも世界規模で進行する政治戦の展開も正確に理解しなければなりません。
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