昭和電工、「小が大を飲む」9640億円買収の成否 社運賭け、「御三家」日立化成を公開買い付け

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巨額買収成功のカギを握るのは、「個性派事業」というものさしだ。昭和電工が2018年に発表した中期経営計画では、「適正な市場規模(数百~数千億円市場)でトップシェアを獲得」できる事業を個性派事業として育成していく方針を示した。それを超える巨大市場だと、設備投資にかかる費用が膨大になり、競争力を維持できないことが理由だ。

実際、昭和電工の事業を見ると、ハードディスクと電子材料用高純度ガス、黒鉛電極の3事業がそれぞれ数千億円程度の市場規模で世界シェアのトップを握っている。

買収後の日立化成に対しても、同様の指標をもとに事業ポートフォリオの再編に乗り出す。日立化成が高いシェアを握るのは封止材や配線板などの半導体向け材料や、自動車向けリチウムイオン電池負極材など。これらは個性派事業の要件を満たすと考えられる。

トップ企業になるチャンスを逃したくない

ただ、裏を返せば、このものさしに当てはまらなければ、切り捨てられる可能性がある。18日の会見で森川社長は、「個性派事業を目指ざせる限りは昭和電工にとって必要な事業である。経営陣がそういうふうに考えられない場合、必要ない事業になると常々言ってきた」と説明し、今後の事業再編については、「まだ何も決まっていない。聖域を設けずにやっていく」と語るにとどめた。

子会社の売却を決めた日立製作所とは「日立化成の雇用を守る」約束しているため、買収後すぐに大規模なリストラに踏み出すとは考えづらい。しかし、今後1~2年のうちに日立化成の一部事業を売却する可能性は消えない。

もう1つは、今回の買収が「高値づかみ」だったとの批判をはね返すことができるかどうか。2019年初めに1600円程度だった日立化成の株価は日立製作所が売却の手続きを進めてから右肩上がりに上昇し、12月18日の終値は4080円に達した。今回のTOBの買い付け価格は4630円で、昭和電工は「直近の株価値上がりだけを見ているわけではなく、もう少し長い目でみるとこの価格は妥当だ」と説明したが、「高すぎる。とても手を出すような金額ではない」(化学メーカーの幹部)という声もあがる。

「これから10年、20年、うち単独でやっていくということも考えたが、世界のトップ企業になれるチャンスを逃したくなかった」。森川社長は会見で巨額買収に踏み切った心情を率直に吐露した。

目の前に転がり込んだ「おいしそうな果実」に目がくらんで安易に手を出したのなら今後数年間、その結果が厳しく問われるのは間違いない。今後1年ほどかけて新しい中期経営計画を策定する予定だといい、まずはその内容が問われることになる。

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