アメリカを静かに殺す「学生ローン」という爆弾 ローンの総額がついに1兆ドルを突破

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ところが、サリー・メイによると、10人の親のうち、約4人が学費の貯蓄をしていない。そして、貯蓄をしている人の平均貯蓄額は1万8135ドルだった。1兆5000億ドルもの学費ローンは、高額な大学の学費と、低い貯蓄率とが招いたものだ。

ボストンのノースイースタン大学を最近卒業したサラ・アンダーソンにとって、これほど高い学費は正当化できないものだ。「大学に行くための費用は、そこで得られる経験に照らして考えれば、あまりに高いと思う。大学は、私がつぎ込んだだけのお金に見合う価値はなかった」と彼女は言う。

産学連携教育に助けられた

アンダーソンは、とくに若い人々にとって、世界やさまざまな異なる考えに目を開かせてくれる高等教育の重要性については理解している。「しかし、費用や借金に伴うストレスを考えると、それだけの価値はない。大学在学中に、すばらしい教授や授業を体験したが、それでも毎年6万ドルの費用に見合ったものではなかった」。

とはいえ、アンダーソンはほかの卒業生に比べればラッキーだ。毎年の平均費用が6万5503ドル(財政援助を受けた場合は2万8565ドル)もかかるエリート大学を、ローンを残さずに卒業できたのだから。「私の両親が長い間私の教育費用を貯めていてくれたことが大きい。私自身も16歳のときからバイトをしていた。複数の仕事を掛け持ちしたこともある」と彼女は話す。

大学が提供する産学連携教育(コーオプ教育)も学費などを賄う一助となった。産学連携教育とは、学生が実社会での経験を得るための取り組みで、通常3~12カ月間のフルタイムの仕事(有給)などを含む。学生は、より詳細で広範な実務経験を積む機会を得るため、このプログラムを通して実践的な2~3以上の学習経験を修了することが期待されている。

ボストンのウェントワース工科大学の協同教育およびキャリアサービスのディレクターであるロビン・ボーシャンによれば、学生はこのプログラムを通して就職に有利となるスキルを得るだけでなく、フルタイムで働くことでお金を稼ぐこともできるので、家庭の負担を減らせるメリットもある。

アンダーソンが学生ローンの借金を残さずに大学を卒業できたのも、このおかげだ。「私が受講したクラスの大半は、高額な授業料を正当化するほどのものではなかったが、卒業後の仕事に直接役に立つ3つのコーオプをとれたことはよかった」と彼女は言った。

彼女にとっては学士号を取得し、その後のキャリアのために選んだ業界での1年半の職務経験を経て大学を卒業したことには価値があった。 学生ローンがないアンダーソンは、現在の収入をすべて家賃や食費、貯金に充てることができる。 また、「必死にならなくても」いい信用スコアを維持できている。そのおかげで、必要に応じて家を借りたり買ったり、また必要に応じ車を購入したりできるし、全体として強固な財務状況を維持できる。

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