「ぼくらの7日間戦争」がアニメで復活した背景 名作に再び光を当てるKADOKAWAの「知財戦略」

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だが、当時の実写映画版『ぼくらの七日間戦争』の印象しかなかった人にとっては、今回のプロジェクトに「30年ほど経ってなぜアニメ化されたのか?」という疑問を抱くかもしれない。KADOKAWAで、IPEx事業本部 アニメ事業局を統括する工藤大丈局次長は、今回のアニメ化の経緯についてこう語る。

舞台は2020年の北海道の廃炭鉱。ただ「大人をやっつける」という原作のコンセプトは踏襲 ©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

「ちょうど今年3月で(KADOKAWAの児童書レーベルの)『角川つばさ文庫』10周年になる。そのタイミングで何かできないかということになり、あらゆる作品を改めて読んで検討をした結果、『ぼくらの七日間戦争』をアニメ化するのがふさわしいのではないかということになった。そもそも宗田先生の『ぼくら』シリーズは、年間数十万冊単位で今でも子どもたちに読み続けられている。40歳以上の世代には宮沢りえさんの映画の印象が強いが、実は世代を超えるタイトルとしても愛されている」

アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』を企画するにあたり、2006年に細田守監督が手がけ、KADOKAWA(当時は角川ヘラルド映画)が配給したアニメ映画版『時をかける少女』の存在は大きかったようだ。

『時をかける少女』の成功が呼び水に

同作の舞台は、1983年に大林宣彦監督が手がけた実写映画版のおよそ20年後の世界。青春映画の金字塔とも言うべき実写映画版をそのままアニメに移し替えるのではなく、原田知世が演じた主人公・芳山和子の姪である紺野真琴を主人公にすることで、現在にも通用する物語へとアップデートした。

「『ぼくら』シリーズは、いまだに子どもたちに読み続けられている作品」と語る、KADOKAWAアニメ事業局の工藤大丈局次長 (筆者撮影)

はかなげな存在感の主人公が魅力だった実写映画版に比べ、アニメ映画版では明るく快活なキャラクターになった。そんなアニメ映画版の評価は非常に高く、細田守監督が名実ともにブレイクするきっかけとなった作品として記憶されている。そして長きにわたって読み継がれている普遍性のある原作を換骨奪胎して制作するという方法論は、アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』でも踏襲された。

アニメ映画版『ぼくらの7日間戦争』は、『時をかける少女』同様、ベースとなる物語、魂は継承しながらも、全体的には現代風にアップデートされている。もちろん現代の高校生を描くために、スマホやSNSといった要素は欠かせない。

1988年の実写映画版は中学生たちが主人公だったため、「大人に対する反発」という部分をストレートに押し出せばよかったが、アニメ映画版では観客の間口を広げるために高校生の設定に変更した。だが、現代の高校生たちが閉鎖された炭鉱に立てこもるということにリアリティーを持たせるためには、一歩も二歩も踏み込んで、登場人物たちの悩みやアイデンティティーといったものに寄り添う必要があった。

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