そごうの栄枯盛衰に見る絶対強者に生じる綻び 堅牢なビジネスモデルが逆に企業を危うくする

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地価が上がっていた1989年までは拡大サイクルが回っていましたが、バブルが崩壊してからはすべてが逆回転し始めたのです。土地を担保にしていた過去の負債がバブル崩壊以降のそごうに重くのしかかり、金融機関からの圧力も高まります。

しかし、水島氏はこの時点でもまだ強気でした。1994年に会長に退いた後も、「景気さえ回復すればすぐにサイクルは正しく回る」と考えていたのです。

しかし、1995年の阪神・淡路大震災、そしてその後の準メインバンクである日本長期信用銀行などの連続破綻というように、日本全体に不況の波が訪れ、そごうは追い込まれていきます。最終的には、政治問題にまで発展した結果、2000年7月、そごうグループ各社は一斉に民事再生法を申請することになりました。長らく百貨店業界のカリスマとしてあがめられていた水島氏が地に落ちた瞬間でした。

持続性の高いビジネスモデルを構築することの危険性

このそごうの話は、水島社長のワンマンの経営体質に目が向けられます。間違いなくそれが本質なのでしょうが、ここではちょっと違う切り口からこの問題を考えてみましょう。

それは「ビジネスモデルの強固さ」という観点です。長い間、安定的に収益を生み出すビジネスモデルを作ると、多くの社員はそのモデルを確実に実行することに意識が向くようになりがちです。ビジネスモデルを疑うより、やったほうが楽に結果は出るのです。「余計なことを考えるよりも、自分に与えられた役割を全うしたほうが合理的」と考えるのは自然なことでしょう。

そして、その期間が長く続けば、やがて社員は疑うことを忘れ、多少経営が間違った意思決定をしても、それを無条件で受け入れるようになります。

そごうの場合は、1967年の千葉そごうの出店でビジネスモデルを確立し、1990年のバブル崩壊まで、20年強もの間、「強固なビジネスモデル」に支えられてきました。

あえて乱暴な言い方をすれば、千葉そごう以降の20年間は、水島社長が出店場所とタイミングさえ決めればよかったのです。水島社長を妄信し、意見をせずにひたすら指示をこなす。20年もの間、つまり新人として入社した社員が40歳を過ぎるタイミングという長期間、そういった状況に慣らされていた社員たちは、現状を疑い、建設的に議論する力を培う機会がありませんでした。

「自社しか知らず、偶像崇拝で井の中の蛙になっている皆さん……指示しなければ何もしないと、外部の人々からそごうの社員への評価は低いのです」

これは、民事再生法申請後、経営再建のためにそごうに乗り込んだ和田繁明・元西武百貨店会長からの、社内報での社員に向けたメッセージです。厳しい内容ではありますが、再びそごうを再生させるためには、「主体的に考える現場」に変えていくことが何よりも必要だったのでしょう。

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この事例は、日頃から自分たちのビジネスモデルに対して、どこから問いを投げかけるべきか、ということを教えてくれます。苦境に陥っている企業にとっては、ビジネスモデルについてゼロ地点、つまり「そもそもこれでいいのか?」というポイントから考え直す必要性がありますが、右肩上がりの成長を続けている企業にとっては、ゼロ地点に戻る必要性がありません。つまり、ビジネスの90%部分の前提を固定化して、残り10%のところから考えれば事足りるのです。

このような状況下で、あえて「90%の大前提」を疑うことは、反発を受けること必至であり、多くのエネルギーを要することではあります。しかし、このそごうの事例を見ればわかるとおり、組織メンバーが「残り10%だけの思考」に偏っていれば、あっという間に組織は崩壊してしまう、ということでもあります。

自分たちのビジネスの前提になっていることは何か? その前提が崩れるのはいつなのか? 私たちはつねにそんな問いを持っておくべきなのでしょう。

荒木 博行 学びデザイン社長

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あらき ひろゆき / Hiroyuki Araki

住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、株式会社学びデザインを設立。フライヤーやNewsPicks、NOKIOOなどスタートアップ企業のアドバイザーとして関わるほか、絵本ナビの社外監査役、武蔵野大学で教員なども務める。『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など著書多数。

 

 

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