ひきこもりを40年隠し続けた家族の強烈な孤立 自己責任論から「恥ずかしくて」周りに頼れない

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東京郊外に住む中川家も、親がひきこもる子を「恥ずかしい」と感じ、ひた隠しにしてきた。地域で家族全体が孤立している、典型的な世帯の1つだ。

中川家の次男である正雄さんは、1959年生まれの60歳。現在90歳になる母親と2人で実家暮らしをしている。すでに「8050」を超えた「9060世帯」だ。

正雄さんは、コンビニで買い物をするなどの簡単な外出はできるものの、ほとんど外の世界とつながることなく、約40年間ひきこもり状態にある。

筆者に相談をしてきたのは、正雄さんの妹である2歳年下の芳子さんだ。芳子さんは結婚をして、現在は実家から離れた土地で暮らしているが、90歳の母親が亡き後、兄がどうなってしまうのか、どうしたらいいのか、思い悩んで筆者に連絡をしてきてくれた。

このように最近は、「恥ずかしい」からと決して口外しようとしない親の世代に代わり、兄弟姉妹や叔父、叔母などの親族が、親亡き後に誰が面倒を見るのかといった危機感から相談してくるケースが増えてきている。

家族のあり方にひきこもり状態になってしまった原因が

芳子さんの話によれば、正雄さんがひきこもり状態になったのは、40年ほど前のことだ。

当時、正雄さんは22歳。調理師学校を卒業したのちに、とある日本料亭に就職し、元気に働いていた。しかし、職場は上下関係が厳しく、当時の母親の話によれば、正雄さんはよく顔を腫らしたり、唇が切れていたりする状態で職場から帰ってきたという。おそらく職場の先輩から暴力を受けていたのだと推測できる。

「普通の親だったら、殴られたような跡があれば、当然『どうしたの?』というようなことを聞くと思うのですけれど、うちの両親はそういうことは一切聞かなかったみたいです。幼い頃からコミュニケーションがとれていない家族で、親としての機能を果たしてなかったんです。兄がひきこもり状態になってしまったのも、そういった家族のあり方が原因していると思っています」

そう芳子さんは、振り返る。

そんな状態が続いたある日、正雄さんは突然、家出をしてしまう。おそらく職場のことに思い悩んだ末の行動だとは思うが、真相はわからない。

「兄はとてもおとなしく、気が弱い性格だったので、そのまま死んでしまうのではないか? と本当に心配しましたが、数日で戻ってきました。そのときも両親はとくに兄と話をすることもなく、兄はそのまま退職しました」

以来、正雄さんは働くことはなく、約40年という長きにわたり、社会とのつながりを遮断したまま、現在に至っている。

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