独立に「成功する人」「失敗する人」の致命的差 「自分本位の独立」が成功する可能性は低い

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ところが、経験・実績が豊富でプライドの高いAさんは、「そんなことわかってるよ」ということで、過去を否定してゼロから学習しようとしません。最初はよくても、時代の変化についていけなくなり、現役時代のコネも効果が薄れ、尻すぼみになっていきます。

それに対してずぶの素人のBさんは、自分の知識・スキルが足りないことを自覚しているので、謙虚にゼロから学習します。自分の経験・スキルを伝えるよりは、顧客のニーズに合わせて顧客と一緒になって研修を作り上げます。顧客から喜んでもらえて、顧客とともに成長していきます。結果として人気講師になれます。

以上が(一見)即戦力のAさんと、ずぶの素人のBさんの成功確率に大きな差がないという理由です。

「自分が主語」の独立は失敗する

ここまで研修講師というやや特殊な職業についてお話ししましたが、本質は中高年の独立起業に広く当てはまるのではないでしょうか。

独立起業する中高年からは、次のような声をよく聞きます。

「自分が会社勤務で培った設計技術を生かして設計事務所をやりたい」

「自分の長年の夢だったカフェをやりたい」

「自分らしく、生き生きと仕事をしたい」

いずれも先頭の単語は「自分」。あくまで自分が起点で、自分が中心です。つまり、中高年は「自分のために独立起業」します。とくにAさんのような自分の強みを生かそうという意識が強い“できるシニア”ほど、顧客の声に耳を傾けず、「私のこの貴重なスキルを御社でも活用してみませんか?」と自分を押し付けようとします。これでは、現役世代からけむたがられてしまい、商売は成り立ちません。

ビジネスの起点も中心も、あくまで顧客です。自分の経験・スキルと顧客ニーズがマッチするのが理想ですが、それは結果論であって、あくまで顧客を起点・中心に考えるべきです。顧客のニーズを知り、顧客ニーズに合った製品・サービスを提供し、顧客満足を得ることでビジネスは発展します。

ということで、中高年の独立起業について厳しい話をしましたが、「だから中高年は独立起業を思いとどまるべき」ということではありません。逆に、どんどん独立起業に挑戦してほしいところです。

アメリカでは、定年制は年齢による差別に当たり違法です。ところが日本では、会社員は60、65歳になると強制解雇され、せっかく培ったスキル・経験が霧散してしまいます。実にもったいない話です。

中高年には積極的に独立起業し、ゼロから学習して成功し、日本経済を活性化させ、自身も充実した生活を送ってほしいものです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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