孫正義が目指す「バフェット最強経営」の要諦 手堅く現金を生みながら投資できるモデル

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他方、バークシャー・ハサウェイの株式投資の手法の特徴は、バフェット氏が「わかるもの」への投資に限られる点です。事業内容、製品、商品・サービスがよく理解できるものにしか投資を行いません。また、ブランド力があり、長期的な成長が見込めて、株価が割安な企業に投資する「バリュー投資」である点も大きな特徴の1つです。

例えば、2018年12月末時点でコカ・コーラの発行済株式の9.4%にあたる4億株を保有し筆頭株主になっていますが、最初に保有を開始したのは1988年にまでさかのぼります。

ファンドマネージャーにあたる孫社長もバフェット氏も、投資先企業の経営者をよく見て投資判断を行っている点は共通します。もちろんこれは2人に限ったことではなく、投資の世界ではよくいわれることでもあります。

収益性と市場評価で両社の明暗が大きく分かれる

2019年7~9月決算では両社の差が明確に表れました。バークシャー・ハサウェイは1月から9月までの9カ月間での純利益は約520億ドル(約5兆6300億円)に達し、同社は「世界で最も利益を上げている上場企業」となりました。一方で、ソフトバンクグループは、冒頭で述べたように、同時期の決算は約7000億円の営業損失を計上しています。

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時価総額では、約5338億ドル(2019年12月3日時点、約58兆円)で世界第6位に位置するバークシャー・ハサウェイに対して、ソフトバンクグループは約8.75兆円と世界30位圏内からも大きく離されています。現時点では、バークシャー・ハサウェイのほうがソフトバンクグループよりも優れた実績を残し、市場からもより評価されていることになります。

最後に指摘しておきたいのは、ソフトバンクグループと「世界で最も利益を上げている上場企業」であるバークシャー・ハサウェイとの鮮明な相違点です。

膨大な純利益と営業キャッシュフローを生み出し、膨大なキャッシュを保有するバークシャー・ハサウェイ。日本では「投資会社」というイメージが強い一方で、実際にはリアルビジネスとして保険、鉄道、電力・エネルギー、製造、小売り、サービスなどでしっかり現金を生み出している手堅さがある企業でもあるのです。

筆者は、時価総額が世界第6位という点においても、逆レバレッジや財務上のリスク顕在化を防いでいくためにも、バークシャー・ハサウェイこそ、ソフトバンクグループが本来最も参考にしたい企業ではないかと考えているのです。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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