――体外受精は精子を卵子の入っている培養液の中に入れて受精を待つ方法、顕微授精は細い注射針を使って精子を卵子に直接注入する方法、ですよね。このような高度生殖医療を行っている病院は技術の差が大きいということでしょうか。
はい。まずは排卵誘発の技術が問われます。患者さんによってオーダーメイドで薬の処方などをしなければなりません。いい成熟卵をちゃんと作り、採卵できる環境を作れるか否かは医師の腕にかかっています。
排卵誘発剤を使うと、多い人では10個以上の卵子を一度に採ることができます。世界のスタンダードな不妊治療では、複数の卵子を培養室に入れて受精・培養し、最もいい胚になったものを1個子宮に移植します。なお、移植しなかった胚は凍結保存しておけば、将来に弟や妹をつくることもできます。
また、培養室では、胚培養士という卵子と精子を扱う技術者たちが働いています。
例えば、顕微授精の場合は、卵子に針を刺して精子を送り込む手順も担いますが、いかに手早く的確に作業できるかが問われます。受精卵はできるだけストレスがかからないようにインキュベーターに戻さねばなりません。当然、使用する器具をつねに清潔に保つことも必要です。胚培養士の方々の腕も妊娠率に影響することを知っておくべきだと思います。
今、最も進化しているクリニックでは、インキュベーターに戻した複数の受精卵をカメラでつねに観察し、胚培養士とAIが同時にチェックしています。AIは画像認識が得意です。どのような分裂の仕方をして胚になっていく受精卵がちゃんと育ちやすいのかを、蓄積されたデータと照らし合わせて判定することができます。人間とAIによって胚にグレードを付け、最も高いものを子宮に移植するのです。
移植するときも高度な技術と経験が必要です。子宮のどこに置くのか、ものすごく小さな胚を管に残さずに本当に置けているのか。細心の注意が必要です。優れたクリニックは移植する際の管の角度や引き抜くタイミングなどのノウハウを蓄積しています。
こうした1つひとつの手順をハイレベルに維持して、つねに研鑽を怠らないこと。それができている医療機関はそんなに多くありません。
病院を選ぶときに参考になる数字
――具体的な病院名を書くわけにはいかないので、病院を選ぶ際に参考となる数字を教えてください。
妊娠率をホームページなどでちゃんと開示しているかどうかが1つの指標になるでしょう。ただし、妊娠しやすい35歳までの患者の妊娠率だけを宣伝していることもあるのでその点は注意してください。最も正確なものは、各医療機関が日本産科婦人科学会に提出しているデータですが、一般の人は見ることができません。
もう1つ言えるのは、年間で100以上の治療例を持っている医療機関を選ぶこと。治療数が多いからこそ、医師や胚培養士の技術が向上し、最新の器具や培養液をそろえるための投資もできるのです。
不妊治療は何度も通院する必要があるので、自宅からあまりに遠い病院は現実的ではありません(地方などの場合はそのような施設がない場合もあるので、難しいケースもありますが、職場や自宅から近い不妊専門クリニックを選ぶことをお勧めします)。
また、費用をどれぐらいかけられるかは家庭によって違います。体外受精や顕微授精は高額になるため、人工授精までにする患者さんも少なくありません。時間も費用も少なく妊娠できることに越したことはないのです。
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