ローマ教皇38年ぶり訪日の「3つの意義」とは 核兵器・環境・労働にこめられたメッセージ

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また核の不拡散・平和利用の文脈で、2015年7月に成立したイラン核合意を、教皇は高く評価している。しかしながらこのイラン核合意は、昨年5月にアメリカのトランプ大統領が破棄を宣言した。教皇の来日は、核兵器への悲惨さを改めて世界に訴えると同時に、アメリカの同盟国である日本からそのことを発信することで、多国間合意の意義を再認識する契機としたい、という意図もあるだろう。

回勅にみる環境問題への強い関心

2つ目の意義は、地球環境問題である。教皇来日のテーマは「すべてのいのちを守るため」と掲げられている。これは、2015年5月に発表された同教皇の回勅『ラウダート・シ』(主を賛美せよ、の意味)の巻末にある「被造物とともにささげるキリスト者の祈り」からとられている。

教皇はその中で、地球をみんなの住む家に例えて「ともに暮らす家を大切に」と呼びかけている。人類共通の家である地球の悲鳴に耳を傾け、それを保全せよ、というメッセージである。

この『ラウダート・シ』は245項目にわたり、神学者だけでなく最先端の科学者や経済学者の頭脳を結集したもので、教皇就任以来準備してきた壮大なプロジェクトの集大成である。

発表されると瞬く間に世界中の関心を引き、スペイン語やポルトガル語圏の欧州やラテン・アメリカ、またドイツの環境研究所のアドバイスもあることから欧州連合(EU)加盟国も強く関心を寄せ、そして世界の知識人やメディアも大きく取り上げた。

日本語訳『回勅 ラウダート・シ――ともに暮らす家を大切に』も2016年に刊行されている。それは、カトリックやキリスト教信者の枠を超えて、「無神論者」を自称する環境保護活動家やリベラルな有名作家たちの強い賛同にまで広がった。企業に対しても「倫理的なビジネス」を説き、大手スーパーなどがフェア・トレード食品を扱うなどの広がりをみせ、日本の流通にも浸透しつつある。

2015年9月25日にフランシスコ教皇が国連にて行ったスピーチは、この『ラウダート・シ』を引用しながら、直後に迫った国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)での「パリ協定」採択を後押しした。

とくに日本では、台風や洪水による被害が年々悪化し、深刻な事態を引き起こしている。地球温暖化による自然災害の拡大は、もはや途上国だけの問題ではない。にもかかわらず、トランプ大統領はアメリカのパリ協定離脱を正式に発表した。

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