ローマ教皇38年ぶり訪日の「3つの意義」とは 核兵器・環境・労働にこめられたメッセージ
その宗教的権威としての影響は、カトリック教徒のみならず広く国際社会に及び、国際規範の形成に大きな影響を与えている。また、外交を展開するうえでは、2国間よりも多国間、とくに国連などのさまざまな国際機関やNGOなどとの協力を重視しており、トランスナショナルなパワーとして高く評価されている。
現在82歳のフランシスコ教皇は、2013年の就任以来47カ国を訪問し、宗教間の対話の促進、紛争からの脱却、貧困の克服、環境問題、さらには核兵器廃絶などを精力的に訴えてきた。それでは、来日した教皇は日本に、そして日本を通じて世界に、いかなる外交的メッセージを投げかけたのか。反・核兵器、地球温暖化問題、労働問題の3点を中心に論じることとする。
唯一の被爆国で核廃絶を語る
第1の反・核兵器への強い思いは、唯一の戦争被爆国日本で、実際に原子爆弾が投下された長崎と広島を訪問することからも、明らかであろう。長崎には隠れキリシタンや24人の殉教した聖人の存在、またザビエルによるキリスト教伝来からとくに信者の多い地域でもあるが、広島については核兵器廃絶の文脈以外ではありえない。
38年前に訪問した教皇ヨハネ・パウロ2世の記念碑もあり、前任者の踏襲とともに、2016年のオバマ大統領訪問で「核兵器なき世界」を訴える意義が強調された地である。また長崎については、平和公園でなく爆心地公園を選び、広島に比べて被爆都市としての国際的な知名度が低いのを受けて、昨年から世界中の信者たちに配布された「焼き場に立つ少年――戦争がもたらすもの」の写真とともに、その存在を改めて世界にアピールした。
また、核不拡散条約にも関心が高い。北朝鮮やインドとパキスタンの間の緊張関係など、核兵器の問題は予断を許さない状況にあるだけに、ナガサキ・ヒロシマで発したメッセージの、国際的なインパクトは特筆すべきであろう。
一方でバチカンは、核の平和利用には賛同の立場で、世界中における核兵器の動向に目を光らせ、原子力の平和利用を管理している国際原子力機関(IAEA)の正式メンバーである。核の平和利用を管理し、軍事的利用を禁止するIAEAに関与することは、バチカンの、安全保障問題への強いコミットメントを意味している。IAEAの事務局長で、残念ながら今年7月に他界した天野之弥氏の働きに教皇は深く感謝している。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら