GSOMIA破棄延期、日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を

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最大の問題である大法院の徴用工判決と日韓合意に基づく「和解・癒し財団」の一方的解散などの問題について、安倍政権は韓国の対応を見守るだけで日本からは動かないというのが基本姿勢だ。12月の日中韓首脳会談の機会を捉え、日韓首脳会談も検討されているが、あくまでもボールは韓国側にあるとして静観の構えだ。

今回はアメリカが積極的に動いたことで最悪の事態は免れた。しかし、すでに紹介したようにアメリカは日韓両国のために動いたわけではなく、あくまでも自国の利益のためであり、それがたまたま日本の要求と合致しただけのことだ。

展望の見えない日韓関係

過去にもアメリカは、日韓関係が悪くなると調整役を果たしている。1965年の日韓国交正常化もアメリカの働きかけが背後にあった。アメリカが動いたのは、冷戦を背景にソ連に対峙するために日韓両国との連携を重視するという国益追求が理由だった。

安倍首相とトランプ大統領が緊密な関係にあるから、アメリカはいつでも日本の求めに応じて動いてくれると考えるのは間違いである。とくに徴用工や慰安婦問題などの歴史問題について、アメリカが積極的に関与することはないだろう。むしろ安倍首相が靖国神社参拝をしたとき、アメリカの国務省が「失望した」という厳しいコメントを出すなど、日本に対して批判的だったことを忘れてはならない。

日韓間の懸案がこのまま何の進展もなければ、2020年に入ると徴用工判決に基づいて差し押さえられた日本企業の資産の現金化が現実のものになる。そうなると日韓対立はさらに激しくなるだろう。直後の4月に韓国の総選挙が予定されていることから、文大統領はこのタイミングで妥協することはできまい。そうなると、いよいよ展望の描けない深刻な状況に陥ってしまう。

今、韓国内では文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が中心になって、「韓日両国企業と国民の自発的な寄付で作った基金を通した賠償案」が検討されている。また日本企業側もいつまでもこの問題を抱えていたくないと、早期決着を望んでいるとも聞く。お互いに疑心暗鬼の中で合意を形成することは困難極まりないことであろうが、そろそろ両国関係者が知恵を絞って、包括的に慰安婦や徴用工問題を決着させる方策を見出すべき時に来ている。

日韓両国間の局長級協議や首脳会談は、そうした道を描くための生産的なものにするべきであろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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