京都の「民泊トラブル激増」に苦しむ市民の怒り マンション共有部分にゴミが散乱することも

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このような民泊市場の急速な拡大の背景には、国の期待があったことも事実である。全国で問題となりつつあった住居の空き家・空き室問題と、インバウンドの急増で深刻になった宿不足という2つの問題。これをマッチングして両方を1度に解決できるのではないかという期待である。しかし、その反面、民泊の最も大きな「副作用」として問題化したのが近隣住民とのトラブルだ。

「夜中まで家の前を通るキャリーケースの音がうるさくて困る」「毎朝毎晩、大勢の見知らぬ外国人がマンションを出入りしている。これではオートロックの意味がなくなっているのではないか」「部屋を間違えた利用者に頻繁に呼び鈴を鳴らされる」「ゴミの放置、煙草のポイ捨てがひどい」「利用者とトラブルになっても管理者が誰かもわからない」

町中の至る所に出現しはじめた民泊。そして、それがもたらした新たな「近所迷惑」。京都の住民たちは戸惑い、おびえ、憤った。なにより厄介なことは、民泊は一般の住居を利用するものであるということだった。これは、それまでホテルや旅館などの営業が禁止されていた住居専用地域でも宿泊業の営業が可能になってしまったということを意味する。これが全国で民泊をめぐる多くのトラブルを生むこととなったのである。

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住居専用地域とは閑静な住環境を守るために商業店舗の出店が規制された地域であり、基本的に観光客とは無縁な地域であった。そのため「見知らぬ人々」が大勢、侵入してくることへの抵抗感も強い。そのうえ「石を投げれば世界遺産にあたる」といわれるほど数多くの(そして毎年増え続ける)観光スポットを擁する京都は、観光スポットと地元の人の暮らしの場が近接し、モザイク状に入り交じる土地でもある。

つまり、民泊業者から見ると、京都市内のあらゆる場所の住居が、「あの有名観光スポットへのアクセス至便!」という売り文句を掲げることができる優良な民泊物件候補であった。

市民の怒りの声に押されて京都の民泊問題が参院選・京都区の1つの争点とまでなった2016年ごろには、仲介サイトに掲載されている京都の民泊の数は2700カ所を超え、そして、そのうち7割が無許可営業であった。つまり行政もその実態を把握していない「ヤミ民泊」だったのである。

お宿バブルは「お宿カオス」

最近、毎晩、隣の部屋に大荷物の人間が出入りしている。どうやら外国人の様子で、言葉も通じない。騒音が気になってマンションの管理会社に問い合わせてみても、男性の1人暮らしのはずだとの回答しか返ってこない。そういえばマンションの共有部分にゴミが散乱するようになった。毎晩訪れる大荷物の人たちは、なぜみんなこのマンションのオートロックの鍵を持っているのか。いったい、お隣で何が起こっているのか……。

そんな正体のわからない不安が京都人を襲った。それも1件や2件ではない。実に2000件に迫る数だったのである。それが京都のヤミ民泊問題であった。

こうして京都がお宿の無法地帯と化している実態が明らかになった。京都を沸かせた「お宿バブル」の実態は、まさにやりたい放題の「お宿カオス」でもあったのである。

中井 治郎 社会学者

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なかい じろう / Jiro Nakai

1977年、大阪府生まれ。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程修了。京都界隈で延長に延長を重ねた学生時代を過ごし、就職氷河期やリーマンショックを受け流してきた人生再設計第一世代の社会学者。現在は京都の三条通で暮らしながら非常勤講師として母校の龍谷大学などで教鞭を執っている。専攻は観光社会学。京都府美山町や世界遺産・熊野古道をフィールドに、文化遺産の観光資源化と山伏についての研究を行う。

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