がんになった緩和ケア医が悟った余命の真実 食べられなくても生きられる時は生きられる

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すると意識を変えたためか、少し気分が楽になり、少し体調も楽になった。さらになんと、食べられるようになってきた。まあ、食べられるようになったとは言っても、1人分は決して望めない。半分はおろか、4分の1人前ぐらいだ。でも、嬉しかった。

そして、退院して間もない頃、妻が消化液逆流に苦しむ私に、しきりに言っていたことを思い出した。

「下から喉に消化液が上がってくるんやったら、口から何か飲んで、上から下へ流し込んだったらええやん」

当時の私は、「そんなことできるわけないやろっ。できるんやったら、もうとっくにやっとるわっ」と、けんか腰で言い返したものだった。

食べられなくても、人は、生きられる時は生きられる

だが、食べられるようになってから、なぜかちょっと興味が湧いてきた。

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いろいろな飲み物でトライしてみたが、最適だったのは意外なドリンク、スポーツ飲料・アクエリアス。こみ上げてきた消化液を、口に含んだアクエリアスで押し流してみると、なくなったわけではないが、喉やけ、胸やけが和らいだ。それから消化液の逆流が起きたときには、1度でダメなら、可能な範囲で2度、3度と繰り返し、この飲み込み流しを実行した。

当然だが、この「飲み込み流し」作戦は、どんな医学書にも書いていない。そもそも、「食べられなくても、生きられる」事実を書いてくれている医学の教科書など、この世にはない。

でも実際、身をもって私は経験した。半年間、ろくろく食べられなくても、人は、生きられる時は生きられるのである。

医学書に載っていることがすべてではない。

ジストを患った医者として、今、まさに断言することができる。

大橋 洋平 愛知県JA厚生連 海南病院 医師

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おおはし ようへい / Yohei Ohashi

1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒業後、総合病院の内科医を経て、2003年、大阪市の淀川キリスト教病院で1年間、ホスピス研修。翌2004年より愛知県のJA厚生連 海南病院・緩和ケア病棟に勤務。2008年よりNPO法人「対人援助・スピリチュアルケア研究会」の村田久行先生に師事し、2013年度から2018年度まで同会・講師。医師生活30周年の2018年6月、希少がん「消化管間質腫瘍」(ジスト)が発見されて手術。抗がん剤治療を続けながら仕事復帰し、自身の経験を発信している。

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