まるで戦場「香港の大学」でその時何が起きたか それでも日本人研究者の彼が香港に残る理由

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――まず、率直に現在の心境を教えてください。

率直に言って、大きなショックを受けています。私にとって大学は働き、学び、住まうすべての場所。そこがシャットダウンされることは非常に悲しい。肉体的にも、精神的にもきついものがあります。

私だけではなく、多くの研究者が居場所を失うことになる。今こそ、言論が必要とされている時だと思う。こういう時だからこそ、われわれが何かを発言できる場所がなくなってしまうことはとても(損失が)大きい。

――警官隊の突入は「大学の自治」を侵害しているという批判もあります。

現在は公立大学という位置づけで、政府の支援を受けて運営されているとしても、香港の大学内は必ずしも「公有地」ではないです。私が所属している香港中文大学も、もともとはいくつかの異なる私立の単科学校が統合されてできたもので、最初から公立だったわけではないからです。

大学の敷地が公有地でないとすれば、突入には捜査令状が必要です。しかし私の知る限り、令状はなかった。そうだとすると、それを正当化できる差し迫った事情が必要だったということになります。

中文大学での衝突のきっかけ

――そもそも、香港中文大学で大規模な衝突が起きたきっかけは何だったのでしょうか。

中文大はメインとなるキャンパスから、MTR(香港最大の鉄道路線)と高速道路をまたいで海側にもキャンパスがあり、その間は橋でつながっています。その橋の上から、デモ隊が線路や道路に向かって物を落としていた。それで警察がやってきたのではないか、というのが私の今のところの理解ですが、さまざまな説があるのでこれが正しいとは言い切れません。

香港中文大学のキャンパス図。まずMTRや高速道路をまたぐ①の橋に警察が到着。その後②の橋も封鎖された(香港中文大学HPを基に筆者作成)

――大学を占拠しているのは、その大学に通う学生達なのでしょうか。

そうとは限りません。これも正確な数字を測るすべはありませんが、私の感覚では中文大を占拠したデモ隊のうち、中文大生は半数くらい。残りは中高生やそもそも学生ではない人、他大学の人たちという感触です。香港理工大学は中文大とは異なり、学内に寮がありません。そのため、私の感触では在校生の割合はもっと下がり、1割程度ではないでしょうか。

――中文大が拠点になったばかりに、逆にデモに巻き込まれた学生もいた?

私はこれまでに、相当な数のデモの現場に出かけています。中文大内に作られたバリケードは非常に作りが甘いものもあり、街中でいわゆる「勇武派」が作ったものとは程遠いものもあった。中文大のキャンパスと外部をつなぐ2箇所の橋は警官隊によって塞がれてしまいました。普段は暴力的なデモに参加し慣れていない学生たちが、目と鼻の先でデモが行われているため応援に出て行って、巻き込まれた可能性は十分に考えられます。

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