通勤客が知らない、電車「混雑率」のカラクリ 輸送力の算出根拠は各社によって異なる

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輸送力を減らしている路線も結構ある。ピークシフトや競合路線へのシフトで輸送人員が減れば、それに見合うように輸送力を減らすのは当然だ。輸送力を減らした結果、混雑率が高くなっても混雑率の水準が低ければ許容できる。たとえば東武伊勢崎線は2008年度から2018年度にかけ輸送力が10.6%減ったが、混雑率は悪化したといっても150.0%だ。このように輸送力を減らした路線の多くにおいて2018年度の混雑率は高くない。しかし、東急田園都市線はいまだに混雑率が182%と高いにもかかわらず、10年間で輸送力が5.6%減ってしまった。ピーク時間帯の運行本数を29本から27本に減らしたのだ。

同社によれば、「ホームドアの設置が進み、駅の停車時間が少しずつ長くなった」。その結果、運行時間が長くなり、最混雑時間帯を走る列車本数が減ってしまったというわけだ。ホームドアの設置によってホーム転落事故がほぼなくなり、安全運行につながっていると考えれば、本数の減少は仕方ないことかもしれない。

田園都市線の輸送力では、気になる点がもう1つある。相互直通運転する東京メトロ半蔵門線の輸送力との比較だ。田園都市線の輸送力は4万0338人。半蔵門線の輸送力は3万8448人。両者の間には1890人の開きがあり、10両編成の列車1本の乗車人員くらいの違いがある。

直通路線でも輸送力が違う「謎」

ところが、両者の輸送力の算出根拠はどちらも10両編成×27本となっている。両者の最混雑時間帯と最混雑区間は田園都市線が7時50分~8時50分の池尻大橋→渋谷間で、半蔵門線が8時00分~9時00分の渋谷→表参道間。両者の間には連続性がある。では、なぜ輸送力が違うのか。

その理由は計算に用いる列車が東急と東京メトロで異なるからだ。田園都市線と半蔵門線は東急、東京メトロ、東武の車両が乗り入れている。実態に合わせるなら、この3種類の列車の走行実績を輸送力の計算に用いるべきだが、東急、東京メトロともに自社の車両だけを計算根拠に用いている。

東急は、「8500系24本、8590系2本、2000系3本、5000系(4ドア)3本など計47本の列車から先頭車の定員の平均、中間車の定員の平均を出して、1列車当たりの定員を1494人としている」と説明する。最近は1列車当たりの定員数が1526人で、8500系よりも50人ほど多い2020系が主流になりつつあるが、輸送力の算出には使われていない。

東京メトロは、「主力車両である8000系の定員1424人を算出根拠に用いている」と説明する。実際には定員数1500人の08系も走っているが、やはり輸送力の算出には使われていない。

そう考えると、混雑率の数字は必ずしも実態を表しているわけではないといえる。通勤利用者が一喜一憂する数字だけに、より正確な混雑率の開示を求めたい。

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