第3回 ドイツのクリスマス

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「家族」の結びつきが最高潮になる日

家族の様相をみると、現在でも日本は「家」を基準にした家族像がけっこう根強い。コントラストを強くしていえば、ドイツは「家」よりも「愛」だ。
 もっともドイツも離婚率は結構高く、再婚を重ねた結果、家族全員の苗字が異なるといった「パッチワークファミリー」も少なくない。それにしても愛で結ばれた夫婦とその子供という家族イメージが強く、クリスマスはそんな家族観を確認し、強める機会でもあるといえるだろう。

また普段から職住近接・短時間労働ということから、個人の可処分時間が確保されているので、平日でも家族と夕食をとるというのが基本的なライフスタイルになりやすい。家族で長期休暇をとることも長きにわたる習慣だ。
 そのせいか日本のお父さんの罪滅ぼし用語「家族サービス」なる言葉はちょっと聞いたことがない。そういったライフスタイルと愛を基本にした家族像は冒頭で触れた数多くの「クリスマスの準備」を経て最高潮になるというふうに考えることもできるだろう。

他方クリスマスの本質を示してくれるのは案外、定住外国人ではないかとも思える。随分前のことだが、外国人家庭を取材した新聞記事を読んだことがある。
 この記事にはイスラム圏であるトルコ人のある女性の話が登場する。この女性の子供がまだ小さかったころ、否応なしにキリスト教圏の行事が家庭にはいってきた。ドイツの学校に通っていればやむを得ないことである。そして実際にクリスマスツリーを自宅で飾ったという。

子供の成人後はツリーを飾ることはなくなったが、その女性は今でもクリスマスになると子供とプレゼントを交換したり、電話で話したりする。そして「愛のお祭りだ」としている。
 宗教性をできるかぎり排除してイスラム教を背景にした家庭にとりいれたところ、クリスマスの本質がかえってかえってよくみえて、純化したかたちだ。

さて、拙稿がウェブにアップされるのはクリスマス直前。ドイツでは教会離れが著しい昨今だが、24日といえばミサ、礼拝に行く人も多い。
 そして街は静寂に包まれ、家々には家族が集っている。読者諸氏も今年は家族や大切な人とともにゆっくり過ごされてみてはどうだろうか。

 

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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