トランプ「大国外交」で、危機に立つ多国間主義 トランプ氏に物申すリーダーがいなくなった
この秩序を今、同じアメリカが破壊しようとしているのである。理由は簡単で、少なからぬアメリカ人が、今の国際秩序が自分たちにとって利益がないと感じているからである。製造業の海外進出と雇用の喪失、多数の移民、膨大な貿易赤字など、不満の材料には事欠かない。それを解消するために、トランプ大統領は多国間外交を拒絶し、二国間外交に奔走する。それも、対話ではなく圧力や制裁、軍事力に物言わせて要求を受け入れさせる悪しき「大国外交」である。
こうした状況を第2次大戦前の1930年代になぞらえる研究者も出ている。主要国が自国優先の政策を展開した結果、国際秩序が崩壊し、最終的に軍事的衝突につながったというのである。さすがに今の時代、主要国には軍事力を解決手段に使う指導者はいないだろう。しかし、いくつかの懸念はある。
広まりつつある「自国中心主義」
今起きていることは「トランプ現象」であり、トランプ大統領がいなくなれば元に戻るだろうという楽観論がある。果たしてそうだろうか。今の世界秩序の変化をもたらしているのは、1人の政治指導者の無知やわがままだけではない面がある。グローバリゼーションや通信技術の飛躍的発展、経済や社会の変革が新たな国際秩序の必要性を生み出している。
また、トランプ大統領がまき散らした自国中心主義が一定の市民権を得て、一部の国に広がりつつあることも否定できない。中国の南シナ海問題やロシアのクリミア併合、さらにはイギリスのBREXIT騒動などは、トランプ大統領と同類の自国中心主義といえるだろう。
ネット空間の飛躍的発展も既存の国際秩序を維持することを困難にしている。あふれかえる断片的な情報を前に、世論は激しくうつろう。トランプ大統領のツィッターがそうであるように、ネット空間は憎悪や不寛容を増幅させ、社会を分断させる手段にもなりうる。そうした世論に迎合することで政治的地位を得ようとする政治が拡大している。東欧の一部の国などで指導者がポピュリズムに背中を押され、トランプ大統領と似たような行動を始めている。
大国の寛大さと包容力によって成り立っていた多国間主義の国際秩序が崩壊の危機に瀕している時代に、新たな国際秩序を創造していくことは至難の業だろう。
中曽根康弘元首相は、リーダーに必要な条件として「説得力」や「結合力」、「人間的魅力」に加えて、「目測力」を挙げていた。問題の所在を認識するとともにそれが今後どう展開するか、それを解決するためには何が必要かなどということを見極める力を意味している。
トランプ大統領のように短期的利益のみにこだわれば、中長期的には世界が混乱し、結果的に大国といえども失うものが多くなることは必然である。こうした視野の狭い指導者の時代が一刻も早く過ぎ去り、創造力に富んだ指導者の時代が来ることを願う。
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