トランプ「大国外交」で、危機に立つ多国間主義 トランプ氏に物申すリーダーがいなくなった

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昨年の国連総会でフランスのマクロン大統領は、名指しこそしなかったものの、トランプ大統領が打ち出す単独行動主義を批判し、「平和実現のためには今世紀は強い多国間のシステムを再構築していくべきだ」と強調した。そのマクロン大統領の矛先は最近は鈍ったようで、逆にトランプ大統領へ近づこうとしているかのように見える。

同じ総会でイギリスのメイ首相も「私はいつもイギリスのメディアが私について書いていることを読むのは楽しくない。しかし、イギリスはそういうメディアの権利を守る。メディアの独立はイギリスの偉大な業績だ」と述べて、メディアに対する反発や批判を繰り返すトランプ大統領を揶揄した。そのメイ首相は政権を追われ、今や「イギリスのトランプ」と言われるジョンソン氏がイギリスの首相である。

トランプ氏をけっして批判しない安倍首相

例外的にトランプ大統領に対して批判的姿勢を続けているのはドイツのメルケル首相だ。今年5月にはアメリカ・ボストンのハーバード大学で、トランプ大統領の掲げる保護主義や単独主義を批判し、学生の喝采を浴びた。しかし、メルケル首相は国政選挙での連敗が続いたため、2年後の引退を表明しており、政治的には完全に影響力を失っている。

そして日本だが、トランプ大統領からどんな無理難題を押し付けられても、あるいはトランプ大統領が北朝鮮のミサイル発射実験を容認する発言をしても、安倍首相からはそれを批判する言葉を聞いたことがない。逆にトランプ大統領との緊密さを誇示し続けている。となると安倍首相の態度も、形を変えた自国中心主義と言えるだろう。

トランプ政権発足時には、政権内にティラーソン国務長官やマティス国防長官ら国際主義の幹部がいて、苦言を呈していた。しかし、トランプ大統領と肌が合わない彼らはやがて政権から追い出されてしまった。つまり、国内はもちろん国外にも、トランプ大統領に物申すリーダーはいない状態なのである。このくらい危なっかしいことはないだろう。

よく知られたことであるが、第2次世界大戦後、破壊と混乱を極めていた国際秩序再建の中核を担ったのはほかならぬアメリカだった。大戦末期にアメリカ北東部の小さな町、ブレトンウッズに各国の代表を集め、国際連合や世界銀行、国際通貨基金という機関を誕生させた。これが戦後の多国間主義の原点だった。

そして、経済や金融、通貨、安全保障などの分野で、多国間による協議で合意を形成し、それを実行していくことを重視してきた。このブレトンウッズ体制が戦後の世界秩序を安定させ、多くの国の発展を実現させてきたのだった。

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