2020年大統領選はトランプ対ウォーレンなのか 支持者を増やしてきたウォーレンの正念場

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(4)「国民皆保険」政策が命取りとなるか

ウォーレン氏が仮に予備選で勝利したとしても、本選では勝てないとみる有権者や専門家は多い。つまり、リベラル派では中道派の支持を集められず、本戦ではトランプ大統領に勝てないとの見方だ。10月まで上昇していたウォーレン氏の支持率は、世論調査でトップの座を獲得した後、伸び悩んでいる。背景には、世論調査で上位に入ることで他の候補から攻撃を受けるようになったことに加え、政策がリベラルすぎるとして、有権者の懸念が高まっていることもありそうだ。

特に命取りになりかねないのが、「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」だ。財源として富裕層への増税を行うという提案は、超党派で有権者から支持を得られるものの、民間保険を廃止して公的保険に切り替えるといった同氏の案は民間保険業界に従事する約55万人の雇用に影響を及ぼす可能性に加え、民間保険に満足している国民の選択肢を奪うことが心配されている。

メディケア・フォー・オールの財源を民主党の対抗馬などから指摘され、11月1日、ウォーレンは詳細を公表した。だが、問題は財源以上にメディケア・フォー・オールの政策自体が本選では票を確保できない可能性があることだ。また、ウォーレンが掲げるハイテク産業の解体やフラッキング(天然ガス・シェールガスの採掘方法)禁止などの政策も労働者の雇用に影響するとの懸念から支持を失いかねない。

「本選で勝てる候補」と判断されるか

ウォーレン氏に国民の注目が集まり、政策の詳細に理解が深まる中、「勝てる候補なのか」についての懸念が増すリスクがあろう。リベラル派の支持は比較的容易に確保できる特性がある。支持率がすでに上限に達している可能性も指摘されており、今後、さらに拡大させるのは容易でないかもしれない。 

通常、この時期は予備選の話題が尽きない。だが、今回は、ここ数カ月、大統領の弾劾調査が脚光を浴びてきた。今後は大統領選への国民の関心が高まること必至だ。同時に先頭集団に加わったウォーレン氏に対する他候補からの批判も強まっていく。大統領選ではなお女性蔑視が根強く残っているとの指摘もある。2016年大統領選でヒラリー・クリントン候補を選んだ民主党有権者が再び女性を選択するかは不透明とみる向きもある。

民主党支持者と話をすると、最も重視するのは「ホワイトハウスからトランプ大統領を追い出すこと」であり、本選で勝てる候補であれば誰でもよいとのコメントを頻繁に聞く。本選で民主党候補がトランプ大統領に勝利するにはラストベルト地域での勝利は不可欠と思われている。現状で、同地域においてウォーレン氏はバイデン氏に比べ劣勢だ。

2020年大統領選で民主党支持層において、心を魅かれるだけでは票を投じず、本選を見据えた投票行動をとる「評論家の投票者(pundit voters)」が増える可能性が高い。予備選に向け選挙戦が本格化する中、ポイントは、有権者がウォーレンを「本選で勝てる候補」と見るか、「勝てない候補」と切り捨てるかだろう。今がその岐路だ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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