半年で事故5件、欧州「格安高速バス会社」の実態 ライバル潰しの低価格が過酷な労働招いた?

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ではフリックスバスは、度重なる事故を受けて、今後どういった対策が必要なのだろうか。

道路交通の場合、ドライバーがどれほど細心の注意を払っていたとしても、避けられない事故というものは必ずある。日本でも、路線バスが事故に巻き込まれるというニュースがあるが、その多くはバス側よりも、むしろ他者の事故をもらうようなものが多い。

だが、日本でも2005年頃から都市間ツアーバスが乱立し、バスの単独事故が増加、その原因がバスドライバーの過酷な労働環境にあるとして大きな社会問題となった。

チケットを販売する業者は、競合他社へ対抗するために極限まで値段を下げ、そのしわ寄せが下請けのバス運行会社へ行っていたのだ。その後、日本では安全運行に対する厳しい規定が設けられているが、2016年には軽井沢でスキーバス事故が起きるなど、安全の問題が解決されたとはいえない。

ヨーロッパにも、1人のドライバーが1日に運転できる時間は制限されており、また運行の合間にも、一定間隔で休憩する時間を取らなければいけない規定がある。にもかかわらず、フリックスバスでは重大事故が多く発生していることから、今後は法を含めた改正も必要なのではないかと感じさせた。

ただし、日本と違ってヨーロッパは複数の国にまたがる国際路線も多く、各国で法の基準が異なるケースもあるので、統一されたルール作りも必要となってくるはずだ。

鉄道事業は大丈夫?

フリックスモビリティは、路線バス事業で成長した企業であるが、近年はフリックストレインのブランドで、鉄道事業へも進出を果たしている。

フリックストレイン。今後バスの代替として、需要の多い区間に設定される可能性がある。各列車の乗車率は高い(筆者撮影)

まず地元ドイツで、集客に苦戦して破産した旧ロコモア社の車両や運行ダイヤなどを引き継ぎ、ベルリン―シュツットガルト間を結ぶ急行列車を運行開始、同社のバス予約システムに組み込んだことで知名度も高まり、各列車の乗車率も高く、上々の滑り出しとなっている。現在は、ハンブルク―ケルン間の運行も開始、今後もドイツ国内の路線網を徐々に拡大していく予定だ。

一方で、フランス国内への参入も表明していて、その中にはパリと南仏を結ぶ夜行列車も含まれている。同社は、ヨーロッパにおける環境問題への関心の高まりによって、今後鉄道の利用者が増えることを予想しており、今後も都市間長距離列車という分野へ積極的に進出していく可能性がある。

前出のレギオジェットは、同じように鉄道を運行しており、鉄道との並行区間はバスの便数を減らすか、撤退させるなどして、鉄道利用を促している。フリックストレインの路線網が拡大すれば、需要の多い区間については同様に、鉄道へシフトさせることも1つの方法として考えられる。

だが、大きな事故を立て続けに起こせば、全体のブランドイメージを損なうことになりかねない。同社には、安全管理や運行体制の見直しを行い、事故の再発防止に努めてほしいものだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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