「落ち着きのない人」の仕事が実は効率的なワケ 効率を追求しても結局仕事が捗らない理由

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先日、『集中力はいらない』という本にも書いたことだが、集中力が求められる仕事は、機械のように正確に同じことを繰り返すような作業だったのである。そのような方面では、人間は機械に太刀打ちできない。そもそも人間がするような仕事ではなかったということだ。逆に、創作的な作業では、むしろきょろきょろと辺りを見回す「落ち着きのない」思考が大事で、発想はこういった状態から生まれやすい。

だから前回記事でも触れたように「片づける必要はない」という話になるし、そもそも創作的な仕事をしている達人の仕事場は、既にそうなっているはずである。散らかっている方が効率が良いことを、経験的に知っているから、自然にそうなっている。整理・整頓して効率を高めよう、などと考えることがない。そういう概念さえないかもしれない。

例として、庭園の話をしよう。枯山水の庭園をご存じだと思う。自然を表現しているものだが、非常に人工的で、シンプルに再現された傑作である。あれは極めて整っていて、秩序を感じさせる。手入れや維持は大変だろう。しかし、本質を追究した結果見えてくる世界観かもしれない。これは、整理・整頓され、精神を集中して得られるもののように感じられる。

一方、最近人気が出てきたイングリッシュガーデンは、一見雑然としている。雑草が生えているように見える。自然に近い状況を活かしている景観だ。

もちろん、人によって好みがあるから、同じイングリッシュガーデンでも、まるで違うものが存在する。つまりは、少しずつ人が手を加え、修正を繰り返している自然といえるだろう。

イングリッシュガーデンは、「散らかっている」と見ることができる。少なくとも、枯山水よりは雑然としている。しかし、どちらが美しいか、となると、人によってそれぞれだ。枯山水の製作や維持には集中力が必要だが、イングリッシュガーデンでは、日々のちょっとした観察と、あれもこれもという目配りや、バランス感覚など、集中力ではない能力が要求されるだろう。

大事なことは方法論ではない

少し俯瞰すれば、文化の価値も多様化しているということだ。人の感覚は、それぞれで自由である。自分が思い描いたとおりのものを実現していくことが、すなわち自由であり、その人の人生の目的だ。他者と同じである必要は全然ない。

そんな多様化した時代に、昔ながらの整理術が役に立つだろうか?

もちろん、役立つ場合もあるけれど、それですべてが解決するわけではない。大雑把にいうと、整理・整頓をして、気持ちが少し良くなる、という効果は認められる。小学生のときに掃除当番をさせられたことを、懐かしく思い出すノスタルジィは得られるかもしれない。それも、悪くはないけれど、現在のあなたの人生の本質を変えるほどのパワーはないだろう。

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人は、どんな場所でも歩くことができる。走ることもできる。アスファルトの道路が走りやすいけれど、舗装されていない場所も歩ける。水の上は歩けないけれど、泳ぐことができる。どこへでも行くことができるのだ。

どうやって歩けば効率的か?どんな環境が歩きやすいのか?

歩き方を改善すれば、もっと速く歩けるはずだ。良い環境を整えれば、もっと楽しく歩くことができるだろう。そう考えて、歩き方や歩く場所の改善に頭を巡らすのが「方法論」である。

しかし、そうではない。大事なことは、あなたはどこへ向かって歩きたいのか、なのである。

森 博嗣 小説家、工学博士

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もり ひろし / Hiroshi Mori

1957年愛知県生まれ。某国立大学の工学部助教授の傍ら1996年、『すべてがFになる』(講談社文庫)で第1回メフィスト賞を受賞し、衝撃デビュー。以後、犀川助教授・西之園萌絵のS&Mシリーズや瀬在丸紅子たちのVシリーズ、『φ(ファイ)は壊れたね』から始まるGシリーズ、『イナイ×イナイ』からのXシリーズがある。ほかに『女王の百年密室』(幻冬舎文庫・新潮文庫)、映画化されて話題になった『スカイ・クロラ』(中公文庫)、『トーマの心臓 Lost heart for Thoma』(メディアファクトリー)などの小説のほか、『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社文庫)、『森博嗣の半熟セミナ博士、質問があります!』(講談社)などのエッセィ、ささきすばる氏との絵本『悪戯王子と猫の物語』(講談社文庫)、庭園鉄道敷設レポート『ミニチュア庭園鉄道』1~3(中公新書ラクレ)、『「やりがいのある仕事」という幻想』『夢の叶え方を知っていますか?』(ともに朝日新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』(新潮新書)など新書の著作も多数ある。

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