台鉄が日本の鉄道20社超と提携する「真の目的」 日本からの観光客誘致よりも重要だった

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周局長は台鉄の管理局長だった人物。台鉄時代に日本の多くの鉄道会社と協定を結んだ、いわば日台鉄道交流の立役者でもある。2015年に友好鉄道協定を結んだ京急と台鉄が今年8月22日、羽田空港国際線ターミナルで友好記念式典を開催し、周局長は式典のために来日した。

台湾鉄路と西武HDの友好協定締結調印式に出席した台湾交通部の周氏(左)と西武HDの後藤高志社長(2015年3月14日、記者撮影)

最近は、日本のテレビでも台湾のローカル鉄道の魅力を伝える番組が見られるようになっており、台湾の鉄道に乗ってみたいと考える日本人旅行者も多いはず。だが、台湾から日本へは2018年に470万人がやってきたのに対して、台湾を訪れる日本人の数は増加傾向にあるとはいえ、2018年で196万人にとどまる。

この状況を考えると、台湾側が「日本の旅行者にもっと台湾の鉄道に乗りに来てほしい」と考えるのも無理はない。

しかし、台鉄が20社を超える日本の鉄道会社と提携する理由は別にあるとする見方もある。「日本の多数の鉄道会社と提携しているということを、市民に誇示したいのではないか」と、台鉄と提携している、ある鉄道会社の幹部が語る。

台鉄は「鉄路弁当節」というイベントを毎秋、台北駅で開催している。基本的には、台湾の鉄道旅行や駅弁の魅力を広く伝える内容だが、日本の鉄道会社も多数参加し、自慢の駅弁を販売している。

過去にこのイベントに参加した実績のある日本の複数の鉄道会社によると、「鉄道会社1社につき、2人分の往復航空券と、人数に関係なく合計で12泊分の宿泊費が出る」という。

海外で駅弁を販売するのは容易ではない。日本で作った駅弁を空輸するか、あるいは現地の食材を使って駅弁を作るにしても、日本国内で製造するのとはコストがまるで違い、とても利益は出ない。大手鉄道会社はともかく、地方の三セクは高コストを理由に参加を躊躇しても不思議はない。そのため、台鉄が旅費を負担して日本の鉄道会社に参加してもらっているのだ。

国際的なプレゼンス維持も狙い?

しかも、鉄路弁当節に参加するのは日本の鉄道会社だけではない。フランスやスイスの鉄道会社も参加しているのだ。

「日本だけでなく欧州の鉄道会社とも友好関係を持っていることを国際社会に示す格好のアピール材料」(前述の鉄道会社幹部)というわけだ。弁当イベントの旅費程度で国際的なプレゼンスを維持できるなら安いという判断だろう。

日本との関係性を強固にしたいと考えるのであれば、台鉄単体で20社を超える日本の鉄道会社と提携するのも合点がいく。そもそも、冒頭の青い森鉄道の例のように、提携の締結式を行うたびに企業や地方行政のトップが訪台してくれるのも、台湾にとってはありがたい話。提携先が増えれば増えるほど、関係性は強固になる。台鉄と日本の鉄道会社との提携はまだまだ増えるかもしれない。

とはいうものの、こうした鉄道会社レベルの提携よりも、個人レベルの交流を積み重ねるほうが、日本と台湾の関係はより強固なものになるはずだ。「日本の旅行者にもっと台湾の鉄道に乗りに来てほしい」という周局長の発言の内側には、さまざまな想いが隠されているのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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