「アジア通貨危機再来、考えていない」 中尾武彦 アジア開発銀行総裁インタビュー
[東京 19日 ロイター] -アジア開発銀行(ADB)の中尾武彦総裁は19日、ロイターのインタビューに応じ、米国の量的緩和政策の縮小によるアジア新興国経済への影響について、ファンダメンタルズ自体は強く、政策当局の備えも手厚く整えられてきたことなどを指摘し、アジア通貨危機の再来は考えていないと述べた。健全なマクロ経済政策と必要な構造改革を続けることで、市場の安定は図られるとの見方を示した。
米量的緩和政策の縮小と新興国経済
今週末にシドニーで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、米国の量的緩和政策の縮小による新興国からの資本流出や通貨安など、新興国経済への影響が主要テーマになるとみられる。米国の量的緩和縮小で、新興国の中には自国通貨安によるインフレ阻止のために利上げに追い込まれた国もある。
中尾氏はアジアの新興国について、1990年代後半に起きたアジア通貨危機当時に比べてファンダメンタルズは強く、金融機関の透明性や資本は強化され、ADBや国際通貨基金(IMF)などによる危機対応の仕組みも強化されたことなどを指摘。各国が「健全なマクロ経済政策と必要な構造政策にきちんとコミットすることで、市場の安定も図られるだろう」と述べ、「アジア通貨危機のようなことの再来は考えていない」と語った。
米国の量的緩和縮小は「米国経済が良くなっていることの表れ」とも語り、アジア新興国で重要なことは「外から長期的な資金が入ってくる投資環境を強化すること。つまり、構造政策。そして、健全なマクロ経済政策を続けることだ」と繰り返し、こうした政策にコミットすることで市場の安定は図られるだろうと述べた。
異次元緩和、アジアでは前向きな評価
インドネシアやフィリピンなど日本への輸出依存度が高い国々にとっては、日本の内需中心の景気回復は追い風。日銀による異次元緩和はアジア経済にとってポジティブな影響をもたらすなどとして、「日銀の金融緩和はアジア諸国で前向きにとらえられている」と評価した。
一方、市場では、4月の消費増税後の景気下振れが予想以上に強まった場合の追加緩和を期待する声も浮上している。日銀の追加緩和の是非について中尾氏は、判断材料を持ち合わせていないとして、それ以上の言及を控えた。
中国シャドーバンキング問題、「デフォルトにさせない」
中国経済は一時の2桁の高成長から2013年には7.7%成長に減速しているが、先行きについて中尾氏は「当面、7%台の成長は維持するだろう」と見通した。
不透明感の強いシャドーバンキング(影の銀行)問題に関して中尾氏は「注意していかなければならない」としながらも、「悪影響は比較的少ないだろう」と指摘。理由として、1)今回の債務拡大は金融危機後の投資拡大を請け負った部分があり、状況が安定してくれば必要性はなくなる、2)民間債務も含めた債務の対国内総生産(GDP)比率は、名目成長率が高いことから日本と比べてもそれほど高くなく、「マネジャブル(コントロール可能)」であること、3)地方と国の権限と税収を調整して地方財政を強化することを明言していること──などを挙げた。
デフォルトによるシステミックリスクにつながる可能性については「政策当局がそういうことはさせない」とした。
(吉川裕子 梶本哲史)
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