「天下のメルセデス」を襲った品質低下の危機 リコールを繰り返し販売不振になった教訓
品質低下の印象を、さらに決定づけたのが、1997年に誕生した初のアメリカ産メルセデス、「Mクラス」。
アラバマ州タスカルーサに新設されたアラバマ工場を見に行ったが、そのラインは、一見してシンプルかつ効率的だった。
「最善か無か」を社是として掲げ、過剰なほどの手間暇をかけ、誇りを持ってクルマ造りに取り組んできた既存のメルセデス工場とはまったく異種異質のものだった。
そして、その工場から送り出されるMクラスの品質は、メルセデス・ユーザーの期待をズタズタに切り裂いてしまうことになる。
ブランドの輝きと価値が大きく低下し、信者が離反
外装/内装は、メルセデス・ファンだけでなく、誰の期待をも裏切るものだった。「安っぽく雑な」仕上がりのMクラスは「アラバマ・メルセデス」と呼ばれ、世界中から非難を浴び、酷評された。
見た目品質だけでなく、信頼性面でもまたメルセデス・ファンを裏切っていた。
Mクラスと同時期にデビューしたAクラスの初期モデルもまた悲惨な内容だった。
僕は、「少なくとも現状のAクラスは絶対に買ってはダメ!」という酷評記事を書いた。それほど酷かった。品質は悪いし、安全性にも大きな欠陥があった。
もちろん、メルセデスは対応策を練り、問題は時間と共に克服されていった。だが、その間、メルセデス・ブランドの輝きと価値は大きく低下した。多くのメルセデス信者が離反していった。
そんな流れにさらに追い打ちをかけたのが2004〜2005年にかけて起こったSBC(センソトロニック・ブレーキ・コントロール)のトラブル。ブレーキ性能を高める先進技術だったが、センサーやコネクタ等々に不具合が出てリコールに。
SBCの不具合は直接安全性に関わる問題だけに、世界中から非難と批判が殺到。SBCを装備したEクラスとSLは極度の販売不振に陥り、メルセデスの経営を強く圧迫した。