「外国人調理師」がこれからの日本に必要なワケ 辻調校長「日本ではかなり小規模の店が流行」
ただし、特定技能の導入によって大きく変わったのは、外国人が労働力として在留できるようになった点。あくまで日本に学びに来ている立場である留学生や技能実習生は働き方に制限がある。留学生は週28時間までしか働けず、技能実習生は単純労働に就いてはならない決まりだ。しかし、特定技能の在留資格では、単純労働を含む広い職種に就職することができるようになった。
特定技能の導入が、日本の深刻な人手不足を補うための政策であるためだ。
懸念されるのが、単純な労働力としてのみ、外国人を雇用する企業が増えるのではということだ。しかし飲食店においてはそうなる可能性は低いという。また、飲食の業界に新風を吹き込む可能性があると辻氏は考えているようだ。
「今の飲食店は一人ひとりが戦力でなくてはならない、少数精鋭になっています。絶対的に人手不足なので、その中に外国人が入ってくる。そうなると、育てる必要が絶対に出てきます。人材育成は、飲食店としての使命になってくる。一方で人を育てるということは、業界の活性化につながります。なぜなら1人、2人でやっている小さな店の場合、どうしても人を育てないからコミュニケーションをしない。するとお客様とのコミュニケーションもなくなる。人を育てなくてもいい、というような考え方では、料理人としての器が小さくなってしまうわけです。
日本では傾向としてかなり小規模の店がはやりです。だから人を育てる余地もなくなる。そういった風潮も変えていかなければならないと思います」(辻氏)
重労働や長時間勤務が人手不足の理由ではない
外食産業の人手不足の一因といわれているのが、重労働や長時間勤務など労働条件の厳しさだが、辻氏はそれも違うと考えているそうだ。
「労働環境についてはもちろん改善していく必要があります。しかし大きな原因は、日本の料理人が魅力的でない、格好よくないからです。つまり私たちが、格好いい料理人のロールモデルを若い人たちに示せていないんですね。一方で、外国人をいとも簡単に育て上げられるというのは格好いいと思いますよ。そして日本人と外国人を競争させる。経営者はそのプラットフォームをつくってあげるべきです」(辻氏)
辻氏は、若者にとっての「格好よさ」の好例として、今話題のラグビーを挙げる。ラグビーの日本代表チームには、日本国籍の選手も含め、多くの外国人が在籍する。またラグビーの「ノーサイドの精神」も相まって、チーム員もサポーターも、国や敵味方の関係なく互いの健闘を応援するという伝統がある。飲食業界でもそのような姿を目指していきたいそうだ。
そして現在、辻調理師専門学校においても、300人以上の留学生が学んでいる。日本語の補講授業などサポートは行っているが、留学生だからと特別扱いするわけではなく、日本人と同じ授業を受講する。アジア圏がメインで、日本語も堪能なため、一見したところでは日本人と留学生の区別もつかないぐらいという。
「日本人だから、外国人だからというのはあまり好きではないのですが、留学生は非常に前向きだと言えますね。できるまで諦めずにやるし、先生に反論してくる子もいて、刺激になっているようです」(辻氏)
アジア圏では日本の調理技術の高さや同校の知名度もあって、ホテルや一流店と呼ばれる店への就職率が高いという。また、同校の同窓会ネットワークも強いそうだ。さらに2019年4月に入学した留学生へのアンケートでは、卒業後日本で働きたい留学生は全体の約5割だ。
前年の7割に比較して減少しているのが気になるが、これも、韓国との関係に由来するのかもしれない。いずれにせよ、これら外国人調理師人材を特定技能の資格において導入していく場合、飲食店側では待遇や生活面などに細やかな配慮が必要になってくるだろう。なお、モスフードサービスでは10月より、ベトナムの国立ダナン観光短期大学と提携して、特定技能ビザ取得を支援するプログラムを開始した。2020年から4年間で350人以上の国内での就業を目指している。
東京オリンピックを経て、大阪万博開催の2025年に向け、飲食業界で大きな変化が起こりそうだ。
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