日本経済はどんな病気にかかっているのか 政府の成長戦略は「やった振り」で終わる?

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もっとも、こうした話をすると、いやいや、日本の経済は、経済政策次第でかつての高度成長期のようなパフォーマンスを上げることができるのだ、当時のようにことが進んでいないのは成長戦略が足りないからだと言う人もでてくるのが、世の中の多様性を実感させてくれる、なかなかおもしろいところでもある。ということで、ここでクイズをひとつ。

まず、ピケティの『21 世紀の資本』にある次の文章中の○にあてはまる国はどこだと思う?

特に○は「栄光の30 年」なるもの、つまり1940 年代末から1970 年代末の30 年間について、かなりノスタルジーを抱いてきた。この30 年は、経済成長が異様に高かった。1970 年代末から、かくも低い成長率という呪いをかけたのがどんな悪霊なのやら、人々はいまだに理解しかねている。今日ですら、多くの人々は過去30 年の「惨めな時代」がいずれは悪夢のように終わり、そして物事は以前のような状態に戻ると信じている。

○の国は、もちろん日本だろう!と思う人がしばしばいるのであるが、そうではなく、○に入る国は、ピケティの祖国フランスである。日本人が「物事は以前のような状態に戻る」と考えているようなことを、実は世界中の高度経済成長を過去に経験したことのある先進国の人たちが考えているというわけである。

過去の高成長はなぜ?――模倣と創造の違い

たしかに、西欧と日本は1950~70 年に大きな経済成長を経験している。それは当然と言えば当然で、西欧は、大戦で破壊され、その間、アメリカは順調にマイペースで成長を遂げていた。したがって、戦後になると西欧はアメリカへの、生産技術・ライフスタイルのキャッチアップを図る機会があったから、大きく経済が成長し人々の生活水準は上がった。

日本が戦後、高度成長期を迎えたのも似たような理由による。知識や技術、そして消費生活がアメリカに追いついたら、西欧も日本も経済成長は、アメリカと同様のペースに落ち着いていき、多少の違いを見せるだけになる。

キャッチアップという本質的には知識や技術の「模倣」でしかないことと、「創造」というものは根本的に違うわけで、その違いが、日本でも、模倣ゆえに、所得倍増計画を派手に達成できた高度経済成長と、創造ゆえに地道となってしまう安定成長の違いをもたらしたと考えられる。

日本の人口調整済み実質GDP は、欧米先進諸国と比べて、そこそこ伸びている。日本の完全失業率は、生産年齢人口の急減の影響もあって、目下、バブル景気(1986年12月~1991年2月)、いざなみ景気(2002年2月~2008年2月)と比べて低い水準にある。

ところが、日本人は、先のピケティの言葉を用いれば、「この30 年は、経済成長が異様に低かった。(中略)多くの人々は過去30年の『惨めな時代』がいずれは悪夢のように終わり、そして物事は以前のような状態に戻ると信じている」ようなのである。そしてそう信じているのは、日本人だけでなく、フランス人も、そして多くの先進国の人たちもであろう。しかし、過去200 年以上のデータに基づいてピケティが言っているように、

(1人当たり産出量は)通常は年率1~1.5%程度の成長でしかなかったのだ。それよりも目に見えて急速な、年率3~4% の成長が起こった歴史的な事例は、他の国に急速に追いつこうとしていた国で起こったものだけだ。(中略)重要な点は、世界の技術的な最前線にいる国で、1 人当たり産出成長率が長期にわたり年率1.5% を上回った国の歴史的事例はひとつもない、ということだ。
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