ワタミ渡邉会長、「88歳までやる」宣言のわけ 「ブラック企業」批判にどのように応えるのか

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しかし、こういった成長戦略を懐疑的に見る関係者は少なくない。「フランチャイズで拡大すると言っても、手を上げる事業主は少ないだろう。現在主力になっている『鳥メロ』『ミライザカ』もけっして本流ではなく、祖業で主力ブランドだった『和民』の店舗はほとんど残っていない。厳しい戦いになるだろう」(業界関係者)。

インパクト十分の復帰会見を開いた渡邉氏だが、懸念されるのはやはり「渡邉氏=ブラック企業」とのイメージだ。この日の記者会見でも「ブラック(企業)批判にどう向き合うか」との質問が出るなど、過去の悪い印象は拭い切れていない。

この日の壇上で渡邉氏は、直近の3年間でワタミ社員の離職率が21.6%から8.5%へと大きく低下し、業界平均を下回る水準になったことや、ホワイト企業財団の「ホワイト企業認定基準」をクリアしたことなどをアピールした。しかし、これらはいずれも渡邉氏が経営から離れていた期間になされたものだ。「成果を出すためには努力を惜しまない」という創業者の復帰によって、労働環境が再び悪化するのではとの懸念は消えない。

「88歳までワタミと関わりたい」宣言

ある外食大手チェーン幹部は、「うちも創業者のリーダーシップで業績を伸ばした時期があった。だが、リーダーがぐいぐい引っ張っていくやり方は、今の時代に合わないだろう」と言う。

改善しつつある経営体質を後戻りさせてしまっては、長期的な業績の成長もおぼつかない。人材確保や店舗のブランドの点で、企業イメージが与える影響は以前にも増して大きくなっているからだ。

会見では、「渡邉CEOの在任期間はどれくらいを想定しているか」との質問も出た。渡邉氏は「未定」と答えながらも、「29年間経営者をやらせていただき、6年間は国会議員になって離れた。もう一度29年間、88歳までワタミと関わりたい」と、経営に並々ならぬ意欲を示した(渡邉氏は今年10月5日に60歳を迎えた)。

青年社長として勢いよく業績を伸ばしてきた成長期とは異なり、これまでのような猛烈な働き方は通用しない。国会議員としての経験を糧に、新しい手法でワタミを導くことはできるか。「22世紀のモデル企業」への道は、それほどたやすいものではない。

佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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