課題山積の日本でシンクタンクが育たない原因 求められるのは霞が関に頼らない政策起業家

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また、人口や環境といった地球規模の長期的な課題も待ったなしの状況です。さらに、民主主義や資本主義についても、これまでの考え方で今後も世界の人々の幸福を持続していくことができるのかという課題も浮上しています。まさに、危機の時代に突入しているのです。

翻って日本の状況を見てみると、バブル経済とその崩壊、少子高齢化など、日本社会はこの20年から30年の間に、危機の予兆に直面し続けてきました。それについては、世界でも日本でもさまざまな研究が行われています。このような経験を、世界と共有する形で普遍的な知的な共有財産、公共財に高めることができるか否かは、日本に突き付けられた大きな試練だとも思います。

課題はどこにあるのか、これまでの政策に足りなかったものは何か、どこが変えられるのか――そのようなことを研究、追求していくと、必ず、ガバナンスの問題に直面します。換言すると、ガバナンスイノベーションが求められるのです。

これまでのように、霞が関の官僚だけが政策を作り与党がそれを実現するというやり方ではなく、政策を立案し、それを社会に打ち出し、一つの政治的な力に変えて実現させていくような政策起業力、その担い手としての政策起業家が今、日本で最も求められている。それが、今日、パネリストの皆さんと共有しておきたい問題意識です。

では、皆さんのこれまでのご経験を踏まえ、議論を進めていきたいと思います。まず、藤沢さんからお願いします。

課題を社会化し、解決策を事業化する

藤沢烈(以下、藤沢):私はNPO非営利組織の立場で、とくに東北の復興の現場で政策にどう向かい合ってきたのかをお話ししたいと思います。テーマは被災者支援です。

藤沢烈(ふじさわ れつ)/1975年生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2年後独立し、NPO・社会事業に特化したコンサルティング会社を設立。2011年の東日本大震災後に、内閣官房震災ボランティア連携室勤務を経て、RCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立。被災地自治体や地元住民、地元企業、NPOなどと提携して被災地復興支援事業を進める。また、総務省・復興庁などの諸委員会のメンバーを歴任し、復興支援や地方創生に関する提言にも携わる。近年は「社会の課題から未来の価値をつくり続ける社会」の実現に向け、地方創生や多様な社会課題にも取り組みを広げている(撮影:今井康一)

行政の被災者支援は概して評判が芳しくありません。震災から8年を経過した今も、被災者からは、復興は進んでいないとの声が多く聞かれます。

その理由は、行政の支援は前例主義によって実施されるため、現に困っている人や苦しんでいる人の、日々変わっていく本当のニーズをすくい上げることが難しいところにあります。

基本的に国が行う被災者支援はほぼすべてが住宅再建です。被災直後は、被災者の大半は住宅再建を望みます。当然です。避難所暮らしはストレス以外の何物でもありません。しかし、住宅が再建され、日常生活が取り戻されると、被災者のニーズは激変します。

東日本大震災の場合は津波と原発事故で、住宅だけではなく、コミュニティーそのものが壊滅した地域が多くあります。元いた同じ場所に大半の人が戻って、以前と同じコミュニティーを再建することはできません。

仮設住宅などで住む家は手に入れることができても、周りは知らない人ばかり、友人もできず孤独だ、といった状況が生まれます。そこで、「人々のつながり」という新しいニーズが生まれます。

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